マーケティング・シンカ論

“仮想伊勢丹”誕生、「リアル百貨店の弱み」克服へ 社内起業した男の夢VR空間に構築(3/4 ページ)

» 2020年08月28日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

「VRに冷ややか」だった企業も、コロナ禍で関心

 伊勢丹がどれだけ本気になっても、VR空間内での経済活動が一般の消費者に波及しないことには、仲田氏が思い描く計画も絵に描いた餅になる。バーチャルマーケットを主催するHIKKYの舟越靖代表取締役社長によると「バーチャルマーケットは、毎回ユーザーを増やしており、第4回の来場数は100万人」だったそうだ。

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 これまでのバーチャルマーケットでは、伊勢丹に加え、セブン-イレブン、KADOKAWA、ソフトバンク、アウディ、ネットフリックスなどが出店し、プロモーションを展開したり、3Dデータを販売した。アウディは「e-tron」という電気自動車の試乗体験を行ったという。

 「これまでVR空間内でのビジネスを冷ややかな目で見ていた企業の中には、コロナ禍の影響もあり、大きな関心を示すところも出てきた」(舟越氏)という。さらに「バーチャルマーケット4では、1000万円程度の売上を上げた企業も登場した」というから驚きだ。今後も、ユーザーの増加と共に、経済圏も急成長しそうな予感だ。

 バーチャルマーケット本来の趣旨は、VR愛好家のコミュニケーション空間であり、そこに個人クリエーターがブースのような形で出店して自作の3Dデータを販売しているという点を忘れてはならない。そのあり様は、同人誌即売会を連想していただくと分かりやすい。今後、独自プラットフォーム構築を予定している仮想伊勢丹も同様で、単なるVR百貨店ではなく、愛好家のコミュニケーション空間としての魅力を拡張していく必要がある。

photo バーチャルマーケットを主催するHIKKYの舟越靖代表取締役社長

 つまり、仮想空間に経済圏を築くためには、企業ビジネスが主体というより、愛好家がVRのコミュニティー空間でつながりを持ちながら、交流や買い物を楽しむための仕組みを強化する必要があるわけだ。さらに、今後の市場の拡大は、個人クリエーターの参加数も影響するだろう。個人クリエーターが多数参加し、多種多様なVRコンテンツが供給されることも必要だ。AppleやGoogleが、スマートフォンアプリの販売プラットフォームを個人プログラマーにも開放したのと同じ理屈だ。

 バーチャルマーケットで気になるのは、個人クリエーターからHIKKYが徴収する、売上に対するロイヤリティー、つまり“テラ銭”だ。昨今、App Storeへの“テラ銭”30%が訴訟騒ぎにまで発展しているだけに、気になるところだ。舟越氏は「約20%のロイヤリティーをいただいている。ただし、サーバ代、カード決済手数料、各種キャンペーン割引などを勘案すると、われわれの手元には2〜3%程度しか残らない」と明かす。

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