とにかくその地域に「チェックイン」をしたら、ユニークな宿泊体験はもちろん、その地域でしか味わえない食事、できない体験が楽しめる。しかしだからといって、新しいハコモノの類は一切つくらない。もとからある施設、観光資源をできる限り再利用する――というのが「分散型リゾート」の最大のポイントなのだ。
という話を聞いても、「町おこしみたいなもんか」とピンときていない方も多いだろう。確かに、「分散型リゾート」には、横浜や大阪に巨大IRを建ててインバウンドとカジノでウハウハみたいな派手さはない。が、これから人口が急速にしぼんでいく日本の地方目線では、はるかに経済的、社会的メリットのある観光モデルなのだ。
まず最も大きいのは、巨大ハコモノに頼らないで、地域の集客力を磨くことができるということだ。
シンガポールのマリーナベイサンズは周辺の小さな屋台も大にぎわいだということで、巨大IRは地域経済にシャワー効果があると言われている。が、それは裏を返せば今回のような世界的危機でIRがつぶれたらその地域は一気に衰退するということだ。強力な劇薬でドーピングをしているようなものなので、それがなくなるとすさまじい副作用が出るのと同じだ。
もともと地域にある資源を生かしている「分散型リゾート」ではそのようなリスクはない。IRやカジノなど新たにつくったハコモノに依存しているわけではないので、どこかの施設がなくなっても地域へのダメージは限定的だ。例えば、宿泊施設がつぶれたからと言って、それでこの地域内のレストランや観光資源の魅力もなくなるというわけではないので、地域全体の集客を立て直すことは可能だ。地域の魅力を分散させているがゆえ、リスクもうまく分散されているのだ。
また、漁業や農業など第一次産業しかないような過疎地にも雇用を創出できるということも大きい。IRができれば確かに何万人という雇用が創出されるが、地域の働き手がそこに集中してしまうことで、その地域に根ざしている飲食業、観光業、漁業、農業という小規模事業者はどんどん衰退していく。イオンモールができると大量の雇用は生まれるが、周辺の商店街がシャッター通りになるのと同じだ。しかし、「分散型リゾート」の場合は、そのような小規模事業者がリゾートホテルの案内人という形である意味、「主役」になる。
つまり、IRのようなバブル的な雇用創出を生み出すことはできないが、その地域で根を下ろして生きていく人たちに対して新たな生計を立てる手段をもたらすことができるのだ。
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