バイトダンスとオラクルの説明にズレ〜 TikTokは米中どちらの企業なのか浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(1/4 ページ)

» 2020年09月24日 07時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

 中国バイトダンスのショート動画アプリ「TikTok」と、米オラクル、米ウォルマートとの技術提携案が今月19日、トランプ大統領の「原則承認」を受けた。最終判断をするためという理由で、配信停止期限は9月20日から27日に延長された。バイトダンス、米企業2社ともに「円満着地」と「勝利感」にこだわった結果、発表文のニュアンスにずれが生じ、TikTok新会社の立ち位置を巡り、憶測や波乱の芽を生んでいる。

バイトダンスと米2社の提携発表で、バイトダンスとオラクルの説明にあるズレの背景には何があるのか(写真:ロイター)

伏兵オラクルとウォルマートが選ばれた理由

 これまでの流れを振り返ってみよう。

 トランプ大統領は8月6日にTikTokを運営する中国バイトダンスとメッセージアプリ「WeChat」を運営する中国テンセントを名指しし、米企業との取引を45日後に禁じる大統領令に署名した。

 そして、9月15日までに米企業との合意案をまとめ、同月20日までに政府の承認を受けなければ、配信を禁止すると言明した。

 その時点でバイトダンスは、マイクロソフトとTikTokの売却交渉を始めていた。遅れてウォルマートも参戦、マイクロソフトと組んだ。オラクルが交渉していると判明したのは8月18日だ。オラクルは企業向けサービスを主事業としているため、マイクロソフトが9月13日に「売却を拒否された」と明らかにするまで、一貫して本命はマイクロソフトだと見られていた。

 マイクロソフトが外れた背景には、中国政府が8月下旬にアルゴリズム技術の輸出を禁止したことがある。TikTokは米国で、人口の3分の1に相当する1億ユーザーを抱えているが、その基幹技術は、ユーザーの好みを学び、先回りして表示するバイトダンスのアルゴリズムだ。コア技術が切り離されるとなると、マイクロソフトが事業を取得する旨味は減る。この点で折り合わず、マイクロソフトは交渉から外れた可能性が高い。

 マイクロソフトより事業シナジーが低いオラクルが提携先に選ばれたのは、トランプ大統領との近さだとも指摘されている。そもそもオラクルが、TikTok争奪戦に加わったことも、同大統領が「(TikTokの売却先として)オラクルも良い会社だ」と発言したことで判明した。オラクルは創業者も現CEOもトランプ大統領支持者として知られる。バイトダンス自身も、競合ともいえない米企業への売却は、中国政府の理解を得やすい。

 マイクロソフトが争奪戦を脱落した後、ウォルマートが独自でバイトダンスとの交渉を続け、結果的に提携にこぎつけたのも、今回の取引の隠れた注目点だ。中国ではコロナ禍でライブコマースが一気に拡大する中、TikTokの中国版である「抖音」はその主要なプラットフォームになった。EC企業との戦いでDX化を進めているウォルマートは、TikTokの運営に参加することで、自らもECプラットフォームになろうとしている。

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