中国バイトダンスのショート動画アプリ「TikTok」と、米オラクル、米ウォルマートとの技術提携案が今月19日、トランプ大統領の「原則承認」を受けた。最終判断をするためという理由で、配信停止期限は9月20日から27日に延長された。バイトダンス、米企業2社ともに「円満着地」と「勝利感」にこだわった結果、発表文のニュアンスにずれが生じ、TikTok新会社の立ち位置を巡り、憶測や波乱の芽を生んでいる。
これまでの流れを振り返ってみよう。
トランプ大統領は8月6日にTikTokを運営する中国バイトダンスとメッセージアプリ「WeChat」を運営する中国テンセントを名指しし、米企業との取引を45日後に禁じる大統領令に署名した。
そして、9月15日までに米企業との合意案をまとめ、同月20日までに政府の承認を受けなければ、配信を禁止すると言明した。
その時点でバイトダンスは、マイクロソフトとTikTokの売却交渉を始めていた。遅れてウォルマートも参戦、マイクロソフトと組んだ。オラクルが交渉していると判明したのは8月18日だ。オラクルは企業向けサービスを主事業としているため、マイクロソフトが9月13日に「売却を拒否された」と明らかにするまで、一貫して本命はマイクロソフトだと見られていた。
マイクロソフトが外れた背景には、中国政府が8月下旬にアルゴリズム技術の輸出を禁止したことがある。TikTokは米国で、人口の3分の1に相当する1億ユーザーを抱えているが、その基幹技術は、ユーザーの好みを学び、先回りして表示するバイトダンスのアルゴリズムだ。コア技術が切り離されるとなると、マイクロソフトが事業を取得する旨味は減る。この点で折り合わず、マイクロソフトは交渉から外れた可能性が高い。
マイクロソフトより事業シナジーが低いオラクルが提携先に選ばれたのは、トランプ大統領との近さだとも指摘されている。そもそもオラクルが、TikTok争奪戦に加わったことも、同大統領が「(TikTokの売却先として)オラクルも良い会社だ」と発言したことで判明した。オラクルは創業者も現CEOもトランプ大統領支持者として知られる。バイトダンス自身も、競合ともいえない米企業への売却は、中国政府の理解を得やすい。
マイクロソフトが争奪戦を脱落した後、ウォルマートが独自でバイトダンスとの交渉を続け、結果的に提携にこぎつけたのも、今回の取引の隠れた注目点だ。中国ではコロナ禍でライブコマースが一気に拡大する中、TikTokの中国版である「抖音」はその主要なプラットフォームになった。EC企業との戦いでDX化を進めているウォルマートは、TikTokの運営に参加することで、自らもECプラットフォームになろうとしている。
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