ビザ審査厳格化でも不十分な「中国スパイ対策」 日本の未来を揺るがす“経済安全保障”の大問題世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)

» 2020年10月08日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

米国のような「厳格化」ができない日本

 大学などの研究に関わって機微情報を盗む外国人留学生を警戒するのは分かる。だが不思議なのは、どのように「厳格化」を行うかだ。そもそも日本はこれまでビザの審査を厳格には行っていなかったため、例えば、勉強や研究のための留学に見せかけて出稼ぎするためにビザを得ている人が少なくなかった。中国人留学生の受け皿となっていた大学では、学生のほとんどが所在不明なんて記事も出ていた。出稼ぎならまだしも、中国政府のスパイ活動として協力者をリクルートする政府・軍関係者らも留学生を装って数多く入国していた可能性がある。

 それは米国を見れば明らかだ。米国でも、留学生に見せかけて医療施設から情報を盗んだり、民間企業から知的財産を盗んだり、研究所から軍事転用できるような機密情報を盗むなどといった中国人の活動が確認されており、実際に何人も摘発されている。

米国では中国人留学生などが何人も摘発されている(写真:ロイター)

 摘発された中国人は、ビザの申請時には、政府や軍とは一切関係がないと申告している。ただそこを強化しても、うその申告などで入国してしまうケースが後を絶たなかった。

 ではどうやってうそが判明するのか。米国では2018年11月から、米司法省が「チャイナ・イニシアティブ」という対中国人の取り締まりを開始。中国人留学生らを次々と取り調べ、家宅捜索までして、政府との関連や人民解放軍との関係を探っている。そこまでして、政府や軍のいわゆる「スパイ」を見つけ出しているのである。逆を言うと、米国のこれまでの動きを見ていると、そこまでしないとスパイを見つけることはできないということだ。

 要するに、日本がこれからやろうとしていることは、スパイ対策なのである。にもかかわらず、日本にはスパイを摘発する法律はないし、留学生が何らかの問題でも起こさない限り、米国のように厳格に調べることもできないだろう。国家を背景に、巧妙にうその申請をしてくる相手に、どう厳格化できるのだろうか。

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