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» 2020年10月22日 05時00分 公開

アートの力で課題解決を:アナログ回帰のコピック 製造会社社長が描くグローバル戦略と「アワード開催の真の狙い」 (1/4)

漫画家やイラストレーターに長年にわたって愛用され続けている画材・コピック。製造会社のトゥーマーカープロダクツは「コピックアワード」と題する作品コンテストを2017年から開いている。その狙いと、その先に描くグローバル戦略を聞いた。

[河嶌太郎,ITmedia]

 漫画家やイラストレーターに長年にわたって愛用され続けている画材・コピック。プロだけでなく、絵描きを趣味にする中高生をはじめとする、多くのアマチュアにも愛されているツールだ。

phot 漫画家やイラストレーターに長年にわたって愛用され続けている画材・コピック(以下、撮影:斉藤順子)

 そのコピックを製造するトゥーマーカープロダクツ(東京・品川)が、「コピックアワード」と題する作品コンテストを2017年から開いている。国内だけでなく、世界中から多数の応募があるのが特徴だ。3回目となる「コピックアワード2020」も今年5月から開かれ、応募点数は第2回の2150点の倍になる、世界89カ国から4300点以上もの応募があった。

 審査員の豪華さも「コピックアワード」の特徴だ。20年の審査員は、『DEATH NOTE』『ヒカルの碁」の作画を手掛ける漫画家の小畑健氏、「ツモリチサト」のファッションブランドで知られる、デザイナーの津森千里氏、雑誌「美術手帖」の総編集長を務める岩渕貞哉氏などが担当している。

phot サインをする漫画家の小畑健氏

 審査委員長を務めたアートディレクターの松下計・東京藝術大学教授は、「こんなに世界中から、4000点以上もの作品が集まるコンペは昨今ない。作品のレベルも高く、プロと思われる方の出品も数多く見られる」と目を見張る。

 成長の背景には、トゥーマーカープロダクツによるグローバル戦略がある。一体どんなビジョンで賞が創設され、ここまで拡大できたのか。同社の石井剛太社長に聞いた。

phot 石井剛太(いしい・ごうた)トゥーマーカープロダクツ代表取締役社長。 1996年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年にみずほ銀行(株式会社日本興業銀行)に入行し2000年、トゥーザイロン役員。03年ソフトウェア・トゥー代表取締役社長(現任)。05年ニュージーランド ミルブルック・リゾート マネージングディレクター(現任)。09年Too取締役を経て11年にToo代表取締役社長(現任)

89カ国から4300点以上の応募

――2019年の第2回は72カ国から2150点、今回の第3回は世界89カ国から4300点以上もの作品が集まりました。ここまで作品が集まった要因は何だと考えていますか。

 以前よりもSNSを利用した応募作品の共有と、多様な言語に対応したマルチリンガル化を促進しました。それに加えて、これは後付けにはなりますが、コロナ禍での室内のアクティビティーとして、コピックを用いて絵を描くのがピッタリだったからではないかと考えています。

 もちろん、第3回を企画した当初は世界がこんな状況になるとは思ってもいませんでしたが、応募作品の中には「STAY HOME」をテーマに描いた作品も多数ありました。コロナ禍におけるソリューションとして、結果的に良かったのではないかと思います。

――見たところ半数近くが海外からの応募作品です。

 ありがたいことに、それだけコピックが世界中で愛されているということだと思います。当社のビジョンとして、「グローバル企業になること」を掲げています。年に1回、全社員を集めた決起大会を開いているのですが、そこでも「グローバル企業とは何だろう」と毎年社員に問いかけています。

phot 次世代アーティスト賞グランプリのJa_Sutapat(Thailand)「Don't believe everything at face value」

――グローバル化戦略の一環として「コピックアワード」を始めたのでしょうか。

 確かに「コピックアワード」を開始してから、海外からの新入社員も増えてきています。当社では毎年10数人の社員を採用していますが、2〜3人は海外出身者です。ただ、アワードのコンセプトとしては、「アートの力で世界をつなげていくこと」を最重要課題としています。アートもデザインと同様に課題解決の一つの方法だと考えています。そのために、これまではクリエイターの方々をコピックを通じて支援する思いで、製品の品質を追究し続けてきました。

 ところが、これからの製造業は製造業だけやればいいという時代ではなく、自分達の製品がどういう使われ方をしてきて、結果的にどういう問題解決につながっているのか、というところまで考えていかなければならないと考えました。「コピックアワード」を始めたきっかけはここにあります。

 結果的には、アワードを通じて自分達の製品がアートや世界とつながっていることを再認識できています。当社の社員にとってもグローバル企業としての自覚を持つことにつながっているのではないかと考えています。手応えは十分にありましたね。

phot 津森千里 審査員賞を受賞したmelistncl(Turkey)「The unordinary restaurant」

――海外から入社する社員には、どんな国の出身者がいるのでしょうか。

 米国、イタリア、ポーランド、中国などさまざまですね。全部で10人以上はいます。イタリア出身の方はいま、コロナの影響でイタリアから出られないんですけど、それでもテレワークという形で仕事を続けられています。もちろん、まだまだ国際企業とは言いがたいですが、海外からの採用人数は年々増え続けています。

――企業のグローバル化を進めていく上で、必要なものは何だと考えていますか。

 シンパシー(他人と感情を共有すること)だけではなく、エンパシー(他人と自分を同一視することなく、他人の心情をくむこと)を、ほかの社員と共有できることではないかと考えています。シンパシーというのは、単なる「私もそう思う」というような、単なる価値観の共有だと思いますが、エンパシーは相手と文化も何もかも違うけれど、「でも私があなたの国に生まれて、あなたの立場になったらそう思う」という、異なる事情や価値観を尊重する力だと考えています。

 相手の立場に立ち、尊重しながら物事を考えられる力――これが何よりグローバル企業に求められていることではないかと思います。

phot 松下計 審査員賞を受賞したSteven Labadessa(United States of America)「2020」

――グローバル化を進めるために、社内の公用語を英語にする企業も出てきています。

 無理に英語化を進めると社員にストレスがかかりますので、当社では自動翻訳などのツールを使う程度に留めています。社内での主要なメッセージは、日本語だけでなく、英語や中国語などに翻訳して回覧できるようにしていますね。何より当社の場合、アートやデザインが何よりの共通言語だと思っていますので、言葉の壁はあまり意識していません。

phot クラフト賞を受賞した越智紫(Japan)「Machiners will I dream?」
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