日米欧がCBDCの研究に舵を切ったのは、「中国に対する危機感」もある。最初にデジタル通貨市中実験を終えた中国は、日本やEUより1年以上先行している。今年夏には深センのほか河北省の経済特区「雄安新区」、四川省成都市、江蘇省蘇州市が実証実験都市に選定され、一部の事業所で給料や手当がデジタル人民元で支給されるようになった。今後、納税や給与支払いなど段階的に流通範囲を増やし、北京で冬季オリンピックが開かれる22年までに正式導入する方針だ。
ではなぜ、中国の動きが他の先進国より早いのか。それはCBDC発行の動機付けが、リブラではなく、自国のQRコード決済アプリ、アリババの「アリペイ(支付宝)」とテンセントの「WeChat Pay(微信支付)」だったからだ。
中国は、国際クレジットカードや電子マネーが普及しておらず、日本以上に現金社会だったことから、14年から15年にかけて両社のQRコード決済が急速に浸透。今や現金お断りの店も珍しくなくなった。
QRコード決済は2つのメガIT企業が消費データを吸い取り、政府が金の流れを把握しにくいため、人民銀にとって好ましい存在ではない。人民銀は14年にCBDCの研究に着手し、17年1月には、テンセントやファーウェイが本社を置き、イノベーション先進都市として知られる深セン市にデジタル通貨研究所を設立した。
フェイスブックが19年6月にリブラ構想を発表すると、人民銀幹部は積極的にリブラへのコメントを発し、中国がリブラ以前からCBDCの研究を進めてきたことを明かした。各国の政治家や金融当局の反発を受けてリブラ構想がしぼむのとは対照的に、人民銀はCBDCの早期発行をアピールし、同年8月には人民銀の穆長春決済司副司長が「いつでも出せる状態」と発言。中央銀行が銀行などの金融機関にデジタル通貨を発行し、金融機関が一般消費者に対し、法定通貨と交換する形でデジタル通貨を提供する「二層運営システム」を採用するスキームも説明した。
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