島忠巡り『キングダム』状態のホームセンター業界 秦=カインズにDCM、ニトリはどう戦う?小売・流通アナリストの視点(3/5 ページ)

» 2020年10月30日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

「仕入れ力」が足りなかった島忠

 千葉を中心とした関東東部にはケーヨー、北関東にはカインズという業界大手が、既にこのエリアを押さえていたからである。島忠は、ホームセンター大手ではあるが、売上の3割程度が家具関連(残り7割がホームセンター)であり、その3割が収益の柱となっていた。ホームセンター部門は、あくまでも家具を売るための「集客部門」という側面があり、カインズなどの専業大手と直接対峙するには仕入れ力が十分とはいえなかった。ざっくり言ってしまえば、首都圏地区大会の代表として「甲子園常連校」ではあったが、甲子園に行けば全国区の優勝候補が立ちはだかりなかなか勝てない、という感じが近い。

 ちなみに、なぜ仕入れの話をするのかといえば、それが収益力に大いに関係するからだ。セブン&アイ・ホールディングスやイオンといった小売トップ企業がプライベートブランド(PB)商品の強化に注力していることはご存じだろう。PB商品は在庫リスクを伴う一方で収益率が高いため、この品ぞろえを充実させて売上比率を高めることが、小売業界にとっての重要な課題となっている。

 ホームセンター業界においてもPB強化が競争力に直結するため、大手各社はPB開発とPB比率の向上にしのぎを削っている。ただ、PBを成立させるためにはいかんせん大量発注できることが前提であり、企業規模の大きい方が有利になる。DCMグループが仲間を集めて大きくなろうとするのは、実はそうした背景がある。

PBの「必勝要素」とは?

 とはいえ、PBを用意して、「安いですから買ってください!」と店中に並べまくったとしても、消費者が「はいそうですか」と買ってくれるほど甘い話ではない。消費者は価格だけではなく、コストパフォーマンスが高いと評価しなければ買ってはくれないのである。

 PBで成功しているものといえば、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」、ユニクロ、ニトリ、良品計画の「無印良品(MUJI)」などが頭に浮かぶと思うが、共通している成功要因は、絶対的な低価格訴求ではなく、価値訴求にある。

 「お、ねだん以上。」をキャッチフレーズにしていることで有名なのがニトリであるが、まさにこの言葉を実現していると消費者が評価したから、ニトリは破竹の勢いでインテリア小売業界を制覇することができた。PBの成功は消費者の「評価と信頼」が前提にある。高いコスパの実現に向けた不断な改善と消費者への訴求が必要なのであり、一朝一夕にボロもうけできるものではない。その意味において、現在のホームセンター業界で、その域に達している企業は、カインズしかいない。同社は古くからPBの構築に取り組み、今ではPBで自社売場を構成できるレベルまで進化しているだけでなく、消費者の評価も高い。DCMグループが合従連衡でトップシェアを奪っても、単独成長のカインズに抜かれてしまったのは、カインズの総合的な商品力が競争力に直結していたからなのである。

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