一つは、国民のほぼ全員が手にしているものであり、その値下げは誰にも分かりやすく批判を受けにくいことが挙げられるでしょう。また、携帯電話は国が免許制度の下に認可している「国民資産」である電波を使ったビジネスであり、携帯電話業者からも民業圧迫だとの責めを負いにくい存在であることもポイントです。
加えて申し上げるなら、業界最大手ドコモの親会社であるNTTはもともと半官僚組織の電電公社であり、現状でも約35%の株式を保有する筆頭株主として政府の言うことをきかせることが容易であること、も忘れてはいけません。菅首相の総務大臣経験から、このような格好のアピール戦略を思いついたのであろうことは容易に想像がつくところでもあります。
さて、本件の大きな問題点の一つは、菅首相がこの件を公言し始めた2年前と今では状況が変わってきている、ということです。すなわち、携帯電話業界を巡る環境が大きく変わってきていることです。それはとりもなおさず5Gを巡る日本の周回遅れ、という問題です。
5Gに関しては、日本も世界各国と同じく18年当時からその対応ビジネス展開を検討してきてはいたのですが、その実用化については20年の東京五輪に合わせようという官民共通の暗黙の了解的方針がありました。ところが、米国をはじめとした世界各国は、急速に注目を集めたデジタルトランスフォーメーション(DX)浸透のカギを握る技術という認識の広がりにより、19年に相次いで商用サービスを開始したのです。
商用サービスの開始が、インフラ整備や5G活用サービス開発の活発化を誘引するのは当然の流れであり、それによって日本は5G関連の特許申請でも世界から大きく後れを取ることになっています。ちなみに5G関連特許申請に関しては、わが国でトップを走るドコモでも、世界シェアはひとけた台にとどまっており、至ってお寒い状況にあるといえます。
通信インフラで主力技術を他国に握られてしまうというのは、国家戦略を考える上からも非常に危険な要素をはらんでいます。5Gにおける1年の出遅れは致命的であり、もはやここで主導権を握るというのは現実的ではないと言っていいでしょう。ならば日本の通信戦略はどうあるべきなのでしょうか。
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