セコい値下げで喜んでいる場合ではない、NTTのドコモ完全子会社化ウラ事情5G時代なのに……(3/4 ページ)

» 2020年11月04日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 これから日本が採るべき通信戦略は、5Gでの出遅れデメリットを極力抑えつつ、次なる「6G」での主導権奪取をはかるべく次世代通信開発への積極投資を仕掛けていく以外にないのです。武田良太総務大臣も「6G開発で後れを取ることは許されない」と断言し、25年の大阪・関西万博で「その成果を世界に示す」と、国として巻き返しへの鼻息は荒いです。

 しかし、6G開発に向けては巨額の研究開発資金が必要です。その一方で、携帯料金引き下げ要請という強引すぎる政治圧力が邪魔をするのです。菅官房長官(当時)の「4割」発言を受けたドコモは、やむなく先行して新料金プランによる値下げを断行します(KDDI、ソフトバンクは静観)。そのため同社は、20年3月期の最終損益で大手3社中最下位に沈むという屈辱的な状況に陥りました。このような損益状況下では十分な投資に備える環境になく、5G対応および来たるべき6G開発に耐えられないと判断した親会社NTTは、ドコモの屈辱的決算公表と時を同じくして同社の完全子会社化に動き出した、というのが今回の騒動の全容であったようです。

20年3月期決算では厳しい結果だったドコモ(出所:同社公式Webサイト)

 この、ドコモの完全子会社化には大きく2つの時代逆行的問題点が指摘できると、私は考えています。

ドコモ子会社化、2つの「時代錯誤ポイント」

 一つは、上記のような流れで事態が急展開したのは、とりもなおさず国の通信戦略を無視した菅首相の近視眼的人気取り戦略のゴリ押しの結果であるという問題です。もちろん、長期的展望を踏まえない目先の人気取り優先戦略の愚かさは言わずもがなではありますが、それ以上に問題なのは、いかに国が大株主であるとはいえ一民間企業の長期戦略を根底から揺るがすような流れに導いた強引さでしょう。官の意向が民の長期戦略を左右するというおよそ昭和的なこの構図が、三十余年をへた令和の時代になお存在していいものなのか、という思いを禁じ得ないのです。

 もう一つの問題点は、今回NTTがドコモを飲み込むことが過去に公正競争確保の観点で政治決断したNTT分割民営化と相いれない、という問題です。監督官庁である総務省は、この20年でドコモが6割以上のシェアを誇っていた「1強2弱」時代から大手3社のシェアが拮抗する状況に変わっており、携帯電話業界における公正な市場競争の阻害懸念はないとしていますが、本当にそうでしょうか。

5Gで“周回遅れ”の日本だが……(出所:ゲッティイメージズ)

 ドコモを吸収する新NTTの規模および資金力は莫大であり、実質的な経営統合によって実現されるドコモの料金値下げ自体、公平な競争の結果であるといえるのか疑問符が付くと考えます。さらに今後の5G、6Gへの対応力に関しても他キャリアと大きな差が出ることは想像に難くなく、5G、6G対応競争は著しく公正さを欠くことにもなりかねないとの考えられるのです。今回の完全子会社化に対するKDDI高橋誠社長の「NTTの経営形態の在り方は、通信市場全体の公正競争という観点から慎重に議論されるべき」との発言は、至極ごもっともと思うわけです。

 加えて、この分割民営化以前への逆行を見ると、ドコモはNTTから完全分離をすることで電電公社由来の根深い官僚的組織風土を一掃し、「顧客優先主義」といった民業のあるべき姿について身をもって学んできたのではなかったのか、という観点からも疑問が残ります。官僚的組織風土が根強く残る巨大組織NTTに再び飲み込まれることにより、ドコモは組織風土が官僚化へ逆行する流れにはあらがえないでしょう。結果として、巨大半官僚企業が5G、6G時代の業界を先導することになるであろう日本の通信業界は、利用者の利便施向上を優先してたゆまぬ成長を遂げていくことができるのか、という懸念までもが頭をもたげます。

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