銀行はCBDCの競合ではなく、重要なパートナーとなる可能性が高い。CBDCの発行自体は日銀が行うものの、その配布は銀行などの金融機関を通じて行う「間接発行型」になると見られるからだ。
これは、例えば利用者は三井住友銀行でCBDCのウォレットを起動させる手続きを行い、三井住友銀行が開発したCBDCアプリを利用するというイメージだ。どの銀行が用意したアプリでも、CBDCへの入出金や支払いは同様に行えるが、使い勝手などは銀行間で差別化の要素が出てくるだろう。
なぜ日銀が直接配るのではなく、銀行を介するのか。それは本人確認の手続きとアプリ管理が必要だからだ。昨今、マネーロンダリング対策のために、銀行口座を開くには厳格な本人確認が求められるのはご存知のとおり。CBDCでも、同様に本人確認を経た上で利用可能になるだろう。また、アプリもセキュリティ対策や機能追加のために継続的にアップデートをしていかなくてはならない。これを担うのが、銀行などの金融機関になる。
「だれかが本人確認をしなくてはいけない。また責任をもってウォレットを提供することも必要だ。間接発行型を取ることで、銀行がその役割を担うことになる」(中島氏)
銀行などで本人確認を行った上でアプリを利用する場合、一つ懸念されるのがプライバシーとの兼ね合いだ。現金は高度な匿名性を持っており、誰が何に使ったのか、誰にいくら渡したのかを、国などが把握することはできない。一方で、銀行には犯罪防止などのための開示義務があり、必要があれば取引履歴は見られてしまう。
実際、中国のデジタル人民元は、匿名性の高い現金をなくし、政府がお金の流れを把握できるようにすることが狙いの1つだと見られている。またロシアも、脱税防止の観点から中央銀行がすべての取引を見られるような仕組みを想定している。
国内においても、匿名性が失われることをおそれて現金を使い続ける人は残るだろう。この問題に対して、どんな解決法があるのだろうか。
1つは、一定の場合にのみ、CBDCの取引情報を見られるようにするやり方だ。犯罪捜査などに限定して、裁判所の許可を得た上で閲覧可能にする仕組みだ。
2つ目は、技術的な解決法だ。ECB(欧州中銀)が行ったデジタルユーロの実証実験では、「匿名バウチャー」という仕組みが使われた。マネーロンダリング対策当局が、毎月各ユーザーに、取引上限額と期間制限の付いた「匿名バウチャー」を発行する。利用者がデジタルユーロを使う際に匿名バウチャーを付けて送れば、中身を見られることなく送金や決済が行える。
「CBDCを導入すると、たちどころに国民のプライバシーがなくなるといった極端な議論もあるが、このようにそうでもない仕組みも考えられ、もっと丁寧な議論が必要だ」(中島氏)
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