莫大なカネを動かす“オンライン活動” バイデンを勝利に導いた「コロナ時代の必須戦略」とは世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2020年11月20日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

過去の投票データを効率的に活用

 さらには、個別訪問の代わりに、ボランティアが「VoteJoe(ジョーに投票)」というアプリをインストールし、それをもとに、激戦州などのリストに一斉にメッセージを送るといった非常に機能的な活動も行った。

 この「VoteJoe」アプリを簡単に説明すると、ボランティアがアプリをGooglePlayやAppStoreからダウンロードすると、電話帳へのアクセスが求められる。それにOKすると、その名前や連絡先をアプリ側の有権者情報(過去の投票歴などは公的情報として得られる)と照らし合わせ、誰がどこの州で過去にどのくらい投票をしているのかなどが分かるようになる。そしてその情報を元にメッセージなどを送ってバイデンへの投票を促すことができるのだ。このアプリも今回の選挙戦でかなり活躍したという。

 これらに加え、バイデン陣営は、テレビ広告などとは別に、FacebookやYouTube、Instagram向けに15秒以下のビデオを作り、バイデンが大統領になることで医療分野の保険や治療がどう変わるかなどの説明を簡単な動画にして配信した。その動画は、家族を事故や病気で失ってきたバイデンは人の心が分かる、というメッセージもうまく組み込んでいる。(参考:YouTube「Train Home」「Been There」)

バイデン陣営は短い動画を作って配信した(出典:YouTube

 米国の選挙では普通なら、例えば無料のコンサートなどを行うなどして有権者を取り込んだりすることが多いが、コロナ禍ではそれができない。代わりに、InstagramやTikTok、YouTubeなどで活躍するインフルエンサーを雇い、Facebookライブやインスタライブを実施。オンラインでインフルエンサー(ビデオブロガーなど)がバイデンにインタビューをするといった企画も行っている。

 米国の大統領選では、相手を激しく批判するネガティブキャンペーンが普通だが、オンラインでもそれは同じだ。例えばトランプ陣営は、バイデンをネタにしたフェイクニュースをばらまく工作などを行っていたが、バイデン陣営はそれにもオンラインで撃退するチームを立ち上げていた。その作戦は陣営内部では「Malarkey Factory(でたらめ工場)」と呼ばれ、多くの専門スタッフを置いてネット上で話題になっている反バイデンの情報などをチェックした。例えば、バイデンが「社会主義者」であるという情報や、「スリーピー(眠そう)」といった情報には反論する投稿などを行って対処した。

 その上で、例えば米フェイスブックが政治広告を禁じた選挙直前の時期には、民主党支持者ら5000人ほどを動員してフェイクニュースに対応したり、バイデンのメッセージを広める体制を作るなどした。

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