ここで出てくるのが2つ目のキーワードである「インフレヘッジ」だ。大規模緩和による金余り相場で行き場をなくしたマネーは、証券や金(ゴールド)、ビットコインに流れ込み、資産インフレ、ひいては通貨価値低下という懸念を生み出している。
こうした懸念は機関投資家のみならず、巨額の資金をドルで保有する企業にも波及し、ビットコインはそのヘッジ先として頭角を現し始めている。
先陣を切ったのは、米ナスダック上場のマイクロストラテジーだ。同社は20年8月、資本配分方針の一環として260億円相当のビットコインを購入したと発表し、良い意味で市場の度肝を抜いた。それから2カ月の間に、オンライン決済のスクエアと資産運用のストーン・リッジもビットコインの購入を発表した。
マイクロストラテジーのビットコイン購入背景は、もっぱらインフレヘッジだ。同社最高経営責任者(CEO)のマイケル・セイラー氏は、「普及のアーリー・サイクルにあるビットコインは、レッドオーシャンとなったIT業界の株や※1カウンターパーティーリスクのある金と比較してもインフレヘッジとして優れている」と語る。
ビットコインの時価総額は、仮想通貨市場内ではダントツトップで2700億ドルに相当するが、確かにその規模はGAFA株の時価総額と比較すると依然として小さく、競争の激しいIT業界の株と比べると、ビットコインには伸び代が残されているといえる。取引所からの仮想通貨流出事件の影響でカウンターパーティーリスクを取り沙汰されることも多々あるが、ネットにつながっていないコールドウォレットを個人保管するだけでそのリスクは極小となる。
加えて、ビットコインは今年、史上3度目の半減期を迎えた。過去2度の半減期後には相場がメジャーな上昇トレンドに突入しており、希少性が一段と高まり長期で価格上昇が見込まれる足元のタイミングと、コロナショックから経済を立て直すための金融緩和の長期化が見込まれるタイミングが重なったことも、こうした企業のビットコイン運用の後押しとなっただろう。
個人の投機マネーが雪だるま方式で肥大化した結果が17年のバブルだったとすれば、20年のビットコイン相場の上昇は明確に一線を画する。数年前では資産としての魅力がなかなか理解されなかったビットコインだが、機関投資家の参入とインフレヘッジ需要の受け皿となり、20年は資産としての本格的な成長を始めた飛躍の年と言える。
※1:通常、取引相手の信用リスク。仮想通貨業界では、取引所への不正アクセスや発行体の不正リスクなど、自己の取引や資産に関わる自己以外の個人・組織がもたらし得るリスクとして広義に用いられる。
英大学院終了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンクにてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング