「2代目」が陥るワナ――大戸屋の、“愛言葉”を忘れた値下げ路線が失敗しそうなワケ大塚家具の二の舞か(3/4 ページ)

» 2020年11月24日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 彼が言う「100円の値下げ」と「提供時間の短縮」は、とりもなおさず店内調理からセントラルキッチンへの移行を前提としています。店内調理を手放すことによる100円の値下げ戦略が、果たして売上を戻すことにつながるのでしょうか。果たして多くの大戸屋利用者が望んでいることなのでしょうか。

 私はむしろ、飲食店にとって重要なリピート客である大戸屋ファンの“大戸屋離れ”を助長することになるのではないか、という懸念の方が大きいと感じています。付け加えれば、智仁氏が胸を張るコロワイドによる大戸屋黒字化の道筋は、旧経営陣が守ってきた大戸屋の「現場の真実」を踏まえない机上論にすぎないと思うのです。

 創業家2代目による祖業軽視&机上論展開といえば、真っ先に大塚家具が思い浮かびます。同社は、社長の座について5年を経た2代目・大塚久美子氏がその座を追われ、創業者である父が一部上場にまで育てた家業が創業家の手を完全に離れるという憂き目と相成りました。大戸屋2代目である智仁氏の姿は、この大塚家具2代目・大塚久美子社長の振る舞いとあまりにダブるのです。

あまりにダブって見える、大塚家具の惨状

 大塚家具は、会員制の高級家具販売という独自のビジネスモデルで成長を続けてきましたが、ニトリやイケアなどのいわゆる薄利多売という業界の新たな流れに押される形でジリ貧状態になり、久美子社長が父のビジネスモデルを完全否定します。久美子社長は株主総会でのプロキシーファイト(委任状争奪戦)を経て会社から父を追い出し、ニトリ・イケアの後追い的戦略に舵を切るも、全くの不発で4期連続の大赤字を計上。救済の手を差し伸べたヤマダホールディングスの傘下に入るも、赤字から脱することができずに家業を完全に手放すに至ったのです。

大塚家具にダブって見える、大戸屋の現状(出所:大塚家具公式Webサイト、写真は大塚久美子社長)

 祖業である会員制家具販売で築き上げたお得意様囲い込み戦略を捨てた大塚家具と、同じく祖業である店内調理方式で作り上げてきたファンを捨てようとしている大戸屋。ニトリ、イケアの後追いでレッドオーシャンに飛び込んでいった大塚家具と、コスト削減を優先して味重視から価格重視へと軸足を移し、特徴のない外食店としてレッドオーシャンに漕ぎ出そうとしている大戸屋――。

 ともに創業者が苦労を重ねて築き上げたオリジナリティーあふれるビジネスモデルを捨てて、あえて勝算に乏しい競争の激しい世界に飛び込もうとしているようにしか見えません。なぜ、強みとして発展を支えてきた特徴を捨てるのか。強みを生かしつつ新たな復活戦略を作り上げていくのが、マネジメントのセオリーではないのかと思うのです。

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