マーケティング・シンカ論

異色の元ビジュアル系社員が、たった1人でインサイドセールスを立ち上げるまで 〜メール配信での大失敗、社内のすれ違いを乗り越えて〜夢を諦め、30代で営業マンに(2/4 ページ)

» 2020年11月27日 07時00分 公開
[秋山未里ITmedia]

 「自分の力不足から、フィールドセールスをはじめとする周りのメンバーと対等なコミュニケーションが取れませんでした。ソリューションに合わないアポイントを取ってしまうことも多かったです。今はそのようにならないために業界知識を付けたり、フィールドセールスが求めているアポイントがどんなものであるかを研究したりという行動に生かせていますが、当時は大変でした」(堤さん)

 2社での経験ののち、18年4月にホットリンクに入社した。堤さんは当時、2社目でうまくいかなかったこともあって「フィールドセールスの方が向いているんじゃないか」と考えたため、フィールドセールスとして入社したという。

 しかし、売上を上げられずに苦戦していたところ、インサイドセールスの立ち上げをしてほしいと打診を受けた。「(上司から)フィールドセールスのスキルを今からつけるよりも、経験のあるインサイドセールスを伸ばした方が早いし向いていると思う。インサイドセールスを立ち上げたいと思っているのでやってほしい、と伝えられました」

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失敗しながらも突き進んだ立ち上げ期

 インサイドセールスを立ち上げるため、初めに取り組んだのはデータの整備だ。当時のホットリンクは分社化の影響を受けメンバーも入れ替わりが多かった。その影響でSFA(Sales Force Automation、営業支援システム)の入力ルールが定まっておらず、データが混在している状況だった。堤さんは電話でアポイントを取得する業務の合間に、地道なデータ整備を3カ月間続けたという。

 当時のホットリンクの営業組織にはフィールドセールスとカスタマーサクセスがあり、堤さんはカスタマーサクセスの業務を兼任しながらインサイドセールス部門を立ち上げた。兼務は苦労したことの1つで、顧客から急な相談があった際はカスタマーサクセスとして時間を拘束されてしまう。インサイドセールスとして新規顧客にアプローチすべきタイミングと重なって、アポイントを取り逃すという悔しい経験もしたという。

 「始めは社内でのインサイドセールスに対しての理解はあまりなかったです。ただ、ちゃんと説明すれば受け入れてくれる社風の会社なので、インサイドセールスの立ち上げは片手間にやれるような仕事じゃないと説明しました」という堤さんの努力もあって、途中からはカスタマーサクセスの中でも時間の拘束がない業務のみを担当するようになった。

 データ整備の後に衝突したのは、フィールドセールスが指定した情報をSFAに入力してくれない、という問題だった。

 例えばフィールドセールスが行った商談が失注した後に、もう一度インサイドセールスからアプローチをする場合、SFAに必要な情報が入力されていればすぐにインサイドセールスが適切な行動を取れる。反対に、入力されていない場合はフィールドセールスに商談内容を確認してから行動する必要があり、時間や機会の喪失につながる。しかし、フィールドセールスの視点で考えると、毎日の商談の中で履歴を残すのは負担でもある。

 「フィールドセールスからは『Excelで良いじゃん』という意見もありました。僕も始めはとにかく『入力してください』とお願いするばかりで、入力するとどのような成果が得られるのかを説明できていませんでした。これは失敗したなと思います。順番を逆にしていれば、おそらくもっと早く定着したのではないかと。例えばお客さまが現在使っているツールや、予算時期など商談でしか得られない情報をデータとして蓄積しておくことで、将来的に営業活動が楽になるのだと腹落ちしてもらうことが重要でした」

 どうしてSFAにデータを入力することが重要なのかを資料化し、週次のMTGでフィールドセールスのメンバーに伝え続けたことで、次第にSFAへのデータ入力が徹底されるようになった。

photo 堤さんが作成した資料の一部

 マーケティングオートメーションの活用も始めた。リード(見込み客情報)の商談見込み度合いを数値化したスコアリングや、メールの一斉配信ができるように細かい設定を行った。

 慣れないシステム設定で、活用開始時には失敗もあった。顧客向けに一斉メールの配信を行ったところ、本来送りたい文章ではなくシステムのテンプレート文が配信されてしまった。

 「テンプレートが英語だったので、スパムメールにも見えるようなものを送ってしまいました。和訳すると魔法学校に入学しませんか、という内容になっていました。『変なメールが来ていますが』という連絡に紛れて、ノリの良い方から『魔法学校入りたいです』という返信も来ました」

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