家系ラーメンの「町田商店」が超えた「多店舗展開10億円の壁」 カギはシステムパワー経営にあり飲食店を科学する(5/5 ページ)

» 2020年11月30日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]
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スタッフのモチベーションを高める評価制度

 今回の執筆に当たり、私も改めて町田商店の店舗を訪れてみました。店舗を利用してみて感じたことはやはり「QSCレベルの高さ」です。いわゆる「昔ながらのラーメン店」といえば「お店が汚い」「店主がぶっきらぼう」といったイメージを持たれる方も多いかと思います。しかし、私が訪れた店舗では、店内清掃や元気の良いあいさつなどが徹底されていました。ちょうど私が帰る際には先輩スタッフが新人のアルバイトに対して、お客さまをお見送りする方法を丁寧に指導している最中でした。口コミサイトなどを見ても、同店のQSCに対する評価は総じて高い傾向があります。

 500店舗以上の展開をしながらも、どうやってQSCレベル向上を実現しているのか? 町田商店を展開するギフトの評価制度について分析をしていきます。

<ギフト社の評価制度>

(1)インセンティブ制度

 同社では店長が行うべき行動や数値を「KPI=重要業績評価指数」と位置付けて明確にしています。このKPIの達成度合いや営業成績に応じてインセンティブ(報奨金)を支給する仕組みを導入することで、「何ができれば評価されるのか」を明確化しています。そして同社のインセンティブ制度で特徴的なのは「KPIランキングと同順位の営業利益順位店舗における営業利益の10%をインセンティブとして獲得できる」という点です。例えば、KPIランキング1位の店舗は、営業利益順位1位の店舗の営業利益の10%を獲得できます。これにより、大型店だけではなく、どこの店舗の店長になっても、インセンティブで1位を目指せるという公平性の高い制度となっています。

(2)ポジション習得制度

 店舗の休憩室などに誰がどのポジション(洗いもの、盛り付け、麺上げ)を習得しているかを記した表を貼りだしており、スタッフ同士で習得できてないポジションを教えあう「師弟制度」が文化として定着しています。私が同店を利用した際に見た先輩スタッフのお見送り指導も、きっとこの師弟制度によるものです。これにより店舗内のチーム力や人材育成力を高めています。

(3)星取制度

 毎日の売り上げ目標と達成状況が一目で分かる表を休憩室に貼り出しており、店内の全スタッフが売り上げ予算の白星(勝ち)、黒星(負け)を意識して行動する文化を築き上げています。

 さらに同社では、社員のみならずアルバイトスタッフまでもが売り上げ予算達成時(白星時)にインセンティブを受け取ることができる「星取制度」も導入しています。こうした取り組みが店舗一丸となって業績アップに取り組む意識を高めています。

(4)店長昇格の明確なルール

 スタッフの店長昇格についても「適正評価」「筆記試験」「プレゼンテーション」などの明確な基準による店長資格認定制度を設けています。常日頃から店長資格を保有するスタッフを増やしていくことで、新店舗出店の際にも即戦力となる店長をスピーディーに配属できるのです。

 さらに同社では、定めたQSCレベルが実際に店舗で実施されているか否かを定期的にチェックしています。しかし、数百店舗を越える自店のQSCレベルを全て本部側でチェックすることは容易ではありません。この部分に関して、同社ではWebシステム上で自店に対する消費者の評価などを収集・閲覧できる「ファンくる」という覆面調査サービスを利用して、常時店舗のQSCレベルをモニタリングしています。こうして得たお客さまからの意見を全店のQSC改善に利用しています。

 コロナ禍により、消費者は外食機会に対してシビアになっています。そして、QSCレベルの低いお店を訪れない傾向がより一層強くなっています。マーケティングで売り上げを増やす戦略もありますが、私は飲食店がウィズ・アフターコロナにおいて一番に取り組むべき戦略は、QSCの向上だと思っています。

 飲食業界は新型コロナウイルスの影響で、本格的な売り上げ回復にはまだ時間がかかります。しかし、こうした中でも自店を利用して下さるお客さまを最高のQSCレベルでお出迎えすることがアフター・ウィズコロナで生き残るための最重要戦略なのです。

 最後までお読み頂きありがとうございました。

 少しでも皆さまのご参考になれば幸いです。

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う。最近では東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタントや青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった飲食店支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。


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