「次なる島忠」は? 買収劇から透けて見えた、ニトリの壮大な野望小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)

» 2020年11月30日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 ニトリの売場面積当たりの売上は、島忠の実に1.4倍。順調にニトリ化すれば、単純計算で1400×1.4=約2000億円の売上を確保した、という計算になるのである。さらに言えば、地方、郊外での売上が多いニトリの既存店で計算して1.4倍というのは、人口密度の高い首都圏の島忠だとそれ以上の売上を生むことができると考えてもおかしくはない。ざっくり言えば、ニトリは海外も含めたこれまでの実績に加え、島忠を獲得したことで、32年に3兆円という目標達成がかなり現実味を帯びてきたといえよう。

 島忠を手中にしたことで首都圏攻略の道筋をつけたニトリであるが、インテリア、雑貨に加え、最近ではカジュアル衣料品への取り組みにも意欲を示している。「私のための大人服」を標ぼうし、婦人向けに展開するN+(エヌプラス)という業態はまだ11店舗ながら、郊外ショッピングモールを中心に着実に出店を進めている。現状ではまだ実験的な範囲を出ないかもしれないが、都市郊外部における女性客のニーズ取り込みということではニトリとしては外せないジャンルだと考えているようだ。

ニトリが手掛ける婦人向けアパレル「N+」(出所:同社公式Webサイト)

 現在、コロナ禍でアパレル事業者が苦境に立たされている中、商業施設内のアパレルテナント交代のチャンスが広がりつつある。この機に、余裕のあるニトリは一気に大都市部に売場確保を進めることも可能であり、一定の売上規模を確保できれば製造インフラを整えて定着化を進めることが予想される。コストパフォーマンスの高いインテリア、雑貨、カジュアル衣料品というジャンルで、「非食品小売業」としての総合化を図っていくという姿勢は明確だろう。つい最近、今後5年間で物流投資に2000億円をかけるというニュースも出たが、こうした背景をあわせて考えてみれば、さらなるインフラ投資にも合点がいく。

順風満帆に見えるニトリ、ライバルは?

 こうした戦略で首都圏を狙う企業はニトリのみではない。前月稿でも触れた、カインズを傘下に持つベイシアグループは、将来的にニトリへ挑戦できる可能性をもった存在だ。非上場なのであまり知られていないが、ベイシアグループとは、国内有数の小売グループを構成する1社であり、ホームセンターであるカインズと、郊外で単層大型生活必需品スーパーを展開するベイシアが中核企業だ。その合計売上規模は現時点でニトリを上回り、11月19日には売上1兆円を達成したと発表している。

 同グループは「ホームセンター」という業種に分類されているが、雑貨、インテリアなどを中心に多くの商品のプライベートブランド化に成功している。この会社が目指す姿もニトリと同じ製造小売業であり、今やその完成度と品ぞろえはニトリに並びつつあるといっていいだろう。

 中核であるカインズでは、ニトリ同様に都心部への攻勢を最近強めている。都市中心部ではショッピングモール向け雑貨業態「Style Factory」を投入しつつ、郊外では生活雑貨中心の小型ホームセンターを展開して大都市住宅地への進出も旺盛だ。そんなカインズのコンセプトは「楽カジ」。家事を楽に、そして楽しくなるようなアイテムを提供し、「くらしを家事から変えていく」ことを標ぼうしている。こうした発想を基に女性目線の店に仕上がったカインズの小型店は、男臭いハードなホームセンターから明らかに脱却しつつあるといえるだろう。

 加えて、ベイシアグループにはもう一つ注目すべき企業がある。

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