「次なる島忠」は? 買収劇から透けて見えた、ニトリの壮大な野望小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2020年11月30日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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大都市部の総合スーパー狙いか

 それは、大都市部に総合スーパーの旧態依然とした店がいまだに残っていて、それなりの売上を生み出しているということだ。

 都内にある、それなりに大きな駅の周辺に、老朽化したイトーヨーカ堂、西友、旧ダイエー、旧サティのイオンなどが残っているのを思い出してほしい。大都市圏は地価も高く、新規出店する余地がほとんどないため、これらの店舗を脅かす競合大型ショッピングモールが多くない。そのため、「昭和平成の遺物」といえるような店舗でも存続できている。競合の激しい地方や郊外では、もうほとんど存在しないレガシーが意外にも大都市圏には残っているのだ。

 経済産業省の商業動態統計によれば、19年時点で首都圏における総合スーパーの非食品ジャンルの売上は、少しずつ減ってきたとはいえ、まだ1兆円程度残っている。前述のような競争環境を理由に残っているマーケットだとすれば、ニトリ、ベイシアグループのような新鋭製造小売業からみれば、フロンティアのように見えているのかもしれない。

 これまではなかなか入っていけなかった、大都市圏住宅地域の需要に近づける道を彼らが見いだしたとすれば、こうしたマーケットが蚕食されることは必至だろう。歴史的な意義を終えたとも考えられる総合スーパーは、地方郊外においては大型ショッピングモールの核店舗として、居場所を残しているが、大都市圏ではこうした転換ができる場所はそう多くはない。「競合の新規参入がない」という理由だけで存続してきた老朽総合スーパーの市場は再分割される可能性は高いだろう。総合スーパーという業態は、地域で必要とされている食品供給機能のみを残して、消失する可能性さえあるかもしれない。

「次なる島忠」は……

 話は戻るが、島忠のような大都市圏に大型店舗網を抱える企業が他にもあるとすれば、これからも“全集中”の争奪戦が行われることは想像に難くない。そうした意味で、大都市圏、つまり京阪神と首都圏に大型店舗を多く保有する企業と言えば、ホームセンターのコーナン商事が思い浮かぶ。

 同社はホームセンター業界第3位として売上は3700億円以上。その3分の2が都市部に集中している。このことから、「次なる島忠」は、コーナン商事といえるかもしれない。そして、ここで驚くべき事実がある。ニトリの似鳥会長はコーナン商事の社外取締役を務めているのである。ただそれだけのことといってしまえばそうなのだが、島忠を巡る動きを見た後、この事実は何とも不気味に感じる。今後もこの業界からは目が離せない。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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