「次なる島忠」は? 買収劇から透けて見えた、ニトリの壮大な野望小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)

» 2020年11月30日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 ニトリホールディングス対DCMホールディングスによる島忠争奪戦は、大方の予想通りニトリの勝利で決着した。DCMの3割増しとなる、1株5500円のTOB価格を提示したニトリは、現経営陣による経営計画の遂行期間と、従業員の雇用維持期間も、DCMの3年を上回る5年を提示して島忠側との合意を実現した。これにより、島忠はニトリの完全子会社となる。

島忠争奪戦に勝利したニトリ(出所:ニトリ公式Webサイト)

 ニトリにとって、島忠の首都圏店舗網を手に入れることが、5年間の激変緩和措置を容認しても、2100億円の投資金額を十分回収できる利用価値があると判断しているということだ。今後、島忠ブランドは存続させ、独自ルートでの家具調達など島忠の強みを残しつつ、自社のプライベートブランド開発ノウハウを提供して、島忠店舗の全国展開を支援するという。今後、島忠はニトリのインフラや商品力を活用して、これまで以上の成長を目指していくということであり、島忠関係者にとってはかなり有利な条件提示だといえるだろう。

設備投資が伸び悩んでいたニトリ

 次の図は、ニトリの最近5年間の営業キャッシュフローと設備投資額を示したものだ。

同社IR資料より筆者が作成

 これは、「稼いだキャッシュをどのくらい設備投資に使っているか」という単純な対比を見た表だ。成長企業であるニトリは順調に稼ぎを増やしてきたが、一方で設備投資額はここ2年ほど減少していることが分かる。店舗網を拡大するスピードに陰りがあり、このままでは従来のような成長スピードを維持できないと踏んだ、という見方もできる。

 地方、郊外での出店余地が少なくなってきた中で、大都市進出を進めてきた勝ち組ニトリといえど、大都市でも場所の確保はなかなか進まないという様子がにじみ出ているデータであり、店舗さえ出せば売上が見込める状況にあるニトリとすれば、さぞや歯痒かったに違いない。そんな中、首都圏に2100億円分をまとめて投資できるチャンスが出たのであるから、これは黙ってはいられなかっただろう。

お値段以上、お釣り十分の買い物か

 直近期の営業キャッシュフローが1000億円弱のニトリにとって、今回の投資額は2年で稼ぎ出せる程度のものだ。もし何もなく、直近期の設備投資である200億円程度のような状態が続いたら、首都圏攻略は何年もかかったことだろう。島忠に対して寛大にも見える5年間の時間的猶予を与えたとしても、ニトリにしてみれば十分におつりがくる時短投資になったはずだ。

 ニトリは中期計画で、2022年に「1000店舗・売上1兆円」、32年には「3000店店舗・3兆円」という壮大な目標をコミットしている。21年2月修正計画では、売上見込7026億円となっており、島忠の1400億円を加えれば、単純合算でも8400億円とその目標達成はほぼ確実となった。その上、島忠の店舗網をニトリ化した場合の潜在力はそれ以上だ。

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