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えちごトキめき鉄道の鳥塚亮社長と沢渡あまねが語る「地方企業の問題地図」 Uターン、Iターンが失敗する構造的問題地方企業の問題地図 【前編】(3/5 ページ)

» 2020年12月18日 11時10分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

地方の鉄道は新しくしたからダメになった

沢渡: 鳥塚さんはいすみ鉄道の頃から新しい取り組みを次々と打ち出していました。旧国鉄車両のキハ28をレストラン列車「レストラン・キハ」にして、伊勢海老特急などたくさんのグルメ列車を企画したほか、ムーミン列車を走らせて、濃い鉄道ファンだけではなく旅が好きな女性などにも訴求してきました。えちごトキめき鉄道ではリゾート列車の「雪月花」を走らせているほか、SLのD51も導入しています。

 これほど新しいことを次々とやろうとすれば、現場には抵抗感を持つ人もいるのではないかと思います。抵抗勢力に対しては、どのように向き合ってきたのでしょうか。

phot えちごトキめき鉄道のリゾート列車「雪月花」(同社のWebサイトより)

鳥塚: 社内には「今までのやり方でやってきて、良くなっているのですか。良くなっていないのなら、そのやり方は変えないといけないですよね」と言ってきました。人間は今までやってきたことを否定されると抵抗しますよね。高齢であればなおさらです。鉄道員は毎日同じことをするのが当たり前ですから。

沢渡: 毎日同じことをきちんとすることも、それはそれで素晴らしいことですよね。

鳥塚: そうですね。でもそうやってきて、ローカル線はなくなっているんですよ。であれば、安全性と運行の正確性をベースにしながら、プラスの部分を考えなければ将来はありません。特に、日本のローカル線は、どんどん新しくして新しくして、結局ダメになってきたのです。

沢渡: 新しくしてダメになってきたというのは、どういうことでしょうか。

鳥塚: 昔は蒸気機関車が走っていましたが、田舎の人は蒸気機関車が恥ずかしくて、それを捨ててしまいました。ところが、東京の地下鉄のようなきれいな車両にしたら、誰も来なくなりました。同じことは鉄道以外でも起きています。竹下登内閣が1988年から89年にかけて、ふるさと創生事業として全国で3000以上あった各市町村に1億円を交付したことがあります。どこも新しい箱モノを作ったものの、誰も来ない施設がたくさんありました。

 なぜなら、田舎にとってのお客さまは都会の人だということが、分かっていないからです。都会の人が魅力的に感じることをしなければならないのに、都会に憧れて新しいものをつくってしまった。だったら、逆に古いものをやりましょうということで、40年前は当たり前だった食堂車を始めたのが「レストラン・キハ」です。海産物であれば、近くでとれる伊勢海老やアワビ、サザエなどを提供しました。

 結局、どのように付加価値をつけるのかが問われているのです。私が子どもの頃、日本は資源がないから大変だといわれてきました。しかし、石油が豊富なアラブの国々などがそれほど発展せず、日本が発展したのは、ものに付加価値をつけることで生きてきたからです。だから地方も、どうやって付加価値をつけるのかを考えていく必要があるのではないでしょうか。

phot 旧国鉄車両のキハ28をレストラン列車「レストラン・キハ」にして、伊勢海老特急などたくさんのグルメ列車を企画した(いすみ鉄道のWebサイトより)

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