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えちごトキめき鉄道の鳥塚亮社長と沢渡あまねが語る「地方企業の問題地図」 Uターン、Iターンが失敗する構造的問題地方企業の問題地図 【前編】(2/5 ページ)

» 2020年12月18日 11時10分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

地方が衰退する原因は社会の構造

――鳥塚さんはブリティッシュ・エアウェイズなどのグローバル企業を経験し、公募でいすみ鉄道の社長を務め、現在はえちごトキめき鉄道の社長に就任しています。外資系企業や地方企業の社長を務めるなど多様性のあるキャリアパスを歩んでいますね。

沢渡: そのキャリアを歩む過程で地域の良いところも課題も見えていると思います。私は浜松市に住んでいて、金沢市にある企業の取締役もしています。その他、全国各都市を回りリアルを見てきました。都市によっては、今までのやり方に無自覚に固執するあまり、衰退が進んでいるところもたくさんあります。地方の衰退をどのように感じていますか。

鳥塚: 地方の衰退や、私が関わっている鉄道業界の衰退は、全国で一律に起きていることです。ということは、何かそこに法則や方程式があるのではないかと、自分が育ってきた時代を振り返りながら考えてきました。

 1960年代までは、地方の人は中学か高校を出たら集団就職で都会に出てきていました。国鉄の集団就職専用列車は75年まで走っていましたね。都会に出たのはだいたい二男や三男です。

沢渡: 長男は家を継ぐから出てこないのですね。

鳥塚: 都会に行かずに地元に残った長男には、当然ですが優秀な人たちがいます。その人たちがある程度、役場や地元の企業に就職していました。今の70代後半から80代以上の世代の人たちですね。それが次の世代、受験戦争で育ったいわゆる偏差値世代になると、少し変わってきます。

 公務員を目指した人は、優秀な人は国家公務員上級試験に合格し、次に優秀な人は県庁に入りました。うがった見方をすれば、偏差値で行き場がなかった人が町役場に入っている。その年代の人たちが現在幹部になっています。この幹部が地域を引っ張って来たことも衰退の一因でしょう。今は、公務員は人気があるので、若くて優秀な職員がたくさんいるにもかかわらず、この世代の管理職が若い人を押さえ込んでいる現状があります。

 地方の民間企業では、経営者の高齢化も問題です。80歳になっても現役で社長をしている人が多いですね。息子は50歳を過ぎているのに「お前にはまだ早い」などと言っているわけです。都会の企業であれば、50歳は出向を打診される世代ですよ。

沢渡: 経営者が高齢化している現場の問題は、私もよく見聞きします。全国で350以上の企業や官公庁の組織変革の支援をしてきましたが、高齢の経営者がいわゆる「院政」を敷いている企業も多いですね。80代、90代の会長が、60代の息子に社長を任せて外野のような顔をしているけれども、結局幅を利かせているので、社員は社長の言うことを聞かず、会長の方ばかり向いている。これでは社長も会社も育たないですし、何より社長が気の毒です。

鳥塚: 幹部が自分を育ててもらったのは会長だと思っていれば、そうなりますよね。このような企業内部の構造と、社会全体の構造があって、日本全国で同時進行的に地域の衰退が起きているというのが、私が感じていることです。

 ただ、先ほどの偏差値で行き場がなかった人たちは、10年ほど経てばいなくなります。一方でバブルが崩壊した後に入社した今の40代以降には、優秀だけれど地方に残った人が全国各地に一定程度います。こういう人たちがあと5年、10年すると地域のリーダーになるので、全部が全部ではないですけど、個人的にはこれから面白くなる地方が出てくると思っています。

phot 高齢の経営者がいわゆる「院政」を敷いている企業も多い

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