『鬼滅の刃』歴代興行収入1位、それでも止まらぬ映画業界「未曽有の危機」ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/5 ページ)

» 2020年12月28日 12時20分 公開
[数土直志ITmedia]

鬼滅、アジアでも記録的ヒット

 もう一度『鬼滅の刃』に戻ってみたい。実は本作の大ヒットは日本だけの現象にとどまっていない。既に公開されている海外の一部でも同様の大ヒットが起きている。

 海外公開で最も早かったのは、10月30日スタートの台湾。公開から記録的なヒットになり、現地では4週間連続で週末興行トップ、日本映画としても、アニメーション映画としても過去最大のヒットになった。台湾映画市場で2020年の年間トップ、20億円を超える興行収入で、歴代トップ10入りも窺(うかが)う。ちなみに『鬼滅の刃』より上位は全てハリウッドの大作映画である。

 11月12日公開の香港でも、2020年の年間トップを獲得。4週連続の週末興行1位の記録が途切れたのは新型コロナ感染症の再拡大で劇場が再び閉鎖になったためだ。さらに12月9日公開のタイ、ベトナムでも週末でトップとなっている。

 現在確認できるだけで、アジア4カ国・地域でトップになったわけだ。これらの地域でもハリウッド映画のほとんどが公開延期をしており、コロナ禍という特殊事情もある。それでも日本映画が、海外でこれだけ多くの観客に支持されるのは特筆すべき事件だ。

 2020年の世界の映画業界は、かつてない状況になっている。12月25日時点で世界全体での2020年興行収入トップ5映画は、『八百』『我和我的家郷』『Bad Boys for Life』『テネット』『鬼滅の刃』である。トップの『八百』を含めて中国映画が2作品、米国映画は2作品、そして日本だ。過半数がアジアとなった。

 今年起きた現象は、一時的なことでないのかもしれない。中国では、ハリウッド映画であっても『ムーラン』や『ワンダーウーマン 1984』は期待されていたほどヒットせず、振るっていない。『ワンダーウーマン 1984』は、日本でも数字を伸ばせなかった。ハリウッド映画のアジアにおける影響力は、実は低下している可能性がある。コロナ禍はあくまできっかけに過ぎず、今後の流れを一気に顕在化させただけかもしれない。

 中国の『八百』や日本の『鬼滅の刃』は、ハリウッド映画が無くても自国作品で映画市場をある程度維持できることを示した。さらにアジア各国では、ハリウッド映画のヒットが無いエリアで『鬼滅の刃』が需要を埋める結果となった。この流れは、これまで世界で支配的な力を持っていた米国のメディアコングロマリットに脅威を与えるに違いない。世界の映画業界は大変動の時期を迎えている。

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