『鬼滅の刃』歴代興行収入1位、それでも止まらぬ映画業界「未曽有の危機」ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(2/5 ページ)

» 2020年12月28日 12時20分 公開
[数土直志ITmedia]

コロナ禍での深刻な「作品供給不足」

 2019年の日本の映画興行収入は全体で2611億円、邦画が54%で洋画が46%とおよそ半分ずつだ。洋画の上位は『アナと雪の女王2』や『アラジン』『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』などディズニーやワーナー・ブラザースの作品が並ぶ。洋画の大半はハリウッド産の大作映画だ。ちなみに邦画のうち4割強がアニメである。

photo 日本の映画興行収入に占める洋画の比率推移(日本映画製作者連盟のデータより筆者作成)

 2020年はこの占有率の数字が大幅に変わりそうだ。12月に業界大手・東宝は記者会見で、同年の国内映画興行収入が前年対比で50%強程度の1350億円程度の見通しになると明らかにしている。まさに半減である。

 このうち8割以上を邦画が占めることになりそうだ。3月以降、『TENET テネット』『ワンダーウーマン 1984』など少数の作品以外、ハリウッド映画の公開が止まっているためだ。

 一方で邦画アニメは例年100億円近い興行収入をたたき出す『名探偵コナン」シリーズがないにも関わらず、『鬼滅の刃』効果で500億円に近い水準に達しそうだ。興行成績全体の3割から4割と邦画アニメの占有率が急上昇する。

 2020年の映画業界最大の課題は、実は作品供給不足である。国内売り上げの半分を占めていた洋画の供給が途絶え、ほぼ無くなったことにある。それでも現在は映画全体を見ると、公開延期された作品を中心に上映編成・スケジュールは埋まっている。しかし21年以降、作品供給不足が常態化しかねない。

 現在ハリウッドでは、映画制作延期が相次いでいる。目先に上映できる大作の数は極端に減りそうだ。それを米国以外の作品やインディーズ映画で埋めるアイデアもある。しかし20年はオンラインへの移行も少なくないものの、大型国際映画祭や映画・番組の国際見本市がリアルで開催されていない。映画バイヤーは新しい作品を観たり、買付けたりする機会が大幅に減っている。たとえ他国作品やインディーズ映画でラインアップを埋めても、やはり集客力で大きな差がある

製作本数の減少、常態化する可能性

 国内の実写映画も同様だ。「三密」を避けるためにロケや撮影は延期が相次ぎ、制作は遅れがちだ。比較的制作が進んでいる邦画アニメへの期待はさらに高まる。公開本数の減少は、映画文化の多様性にも打撃を与える。

 さらにハリウッド映画については、製作本数の減少は一時的なものに終わらないかもしれない。劇場に観客の足がいつ戻るか見通しがつかず、新たな企画には慎重になる。今回のコロナ禍で、多くの映画会社の経営体力が落ちている。今後製作予算のかかる大作削減が、経営の課題に挙がることは十分予想される。中長期的に製作数が減少する可能性がある。

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