『鬼滅の刃』歴代興行収入1位、それでも止まらぬ映画業界「未曽有の危機」ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(3/5 ページ)

» 2020年12月28日 12時20分 公開
[数土直志ITmedia]

配信サービス躍進で劇場に暗雲

 もう1つ、配信の問題もある。映画興行が大幅縮小するなかで、配信ビジネスの成長と高い収益性が脚光を浴びている。配信プラットフォームで世界最大のNetflixは、一時期は米国国内の有料契約者数が伸び悩んだが、巣籠(ご)もり消費で一転して2020年に大幅に契約者数を伸ばした。その数は全世界で2億人に迫る。

 これは既存の大手映画会社でも同様だ。ディズニーの配信サービスDisney+ (ディズニープラス)は、スタートから1年で契約者数を7300万世帯以上獲得した。ワーナーメディアのHBO Maxも好調だという。

 この結果、これまで劇場公開を前提にしていた大作を配信に供給する方針を相次いで打ち出した。ディズニーは『ムーラン』や『ソウルフル・ワールド』といった大作を配信作品に切り替え、ワーナーも『ワンダーウーマン 1984』を本国で劇場公開・配信同時スタートとした。

 さらにディズニーとワーナーは、今後はリリースする大作の多くを劇場公開と配信の同時展開にすると発表した。こうした方針はコロナ禍だけが理由でもなさそうだ。一過性というよりも、長期的な新方針に見える。

 配信は劇場運営リスクを回避するだけでなく、利益面での判断も大きい。劇場興行では通常チケット収入の半分は劇場の取り分だ。しかし自社プラットフォームでの配信であれば、鑑賞料金の全てが自社の手元に残る。売り上げ全体が多少落ちても、映画会社にとって利益は大きい。

 さらに配信と同時に劇場公開すれば、劇場集客向けの宣伝・プロモーションはこれまでより弱くなるだろう。それが劇場への集客をさらに弱くする負のスパイラルに陥りかねない。

 この流れは日本の洋画の劇場興行に波及するだろう。同時配信が日本に及べば、国内でもハリウッド映画への劇場への客足は鈍る。映画の宣伝費やプロモーション費が削減されれば、それが集客を弱くする。ハリウッド映画に依存の大きかった国内映画興行には、暗雲が漂う。

 しかしハリウッド映画の劇場興行後退は、日本の映画業界にとってチャンスでもある。ハリウッドメジャーがコロナ禍をきっかけにビジネス戦略を大きく変える中、世界の映画ビジネスの変化も見えてきた。それはとりわけアジア市場で顕著であり、日本勢にとっての商機になり得るのだ。

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