鉄道、宅配、コンビニ、病院が、次々とブラック化するワケスピン経済の歩き方(7/7 ページ)

» 2020年12月30日 08時30分 公開
[窪田順生ITmedia]
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インフラを整備してきた問題

 では、なぜそんな分かりきったことを今日にいたるまでやらなかったのかというと、日本の医療政策に影響力を持つ日本医師会が「医療体制の再編・統合」に対し、後ろ向きだからだ。よく言われるように、日本医師会は現在、医療崩壊の危機が叫ばれているような病院の「代弁者」ではない。

 日本医師会会員数調査(令和元年12月1日現在)によれば、会員総数17万2763人のうち8万3368人は「病院・診療所の開設者」であり、その内訳は、病院開設者が3985人に対して、診療所開設者は7万473人と大多数を占めている。こういう比率なので、日本医師会の提言は、町の小さな医院や個人クリニックを利するようなものが多いと言われているのだ。

日本には病院が多い。しかし……

 日本の多すぎる病院を統合・再編をして医療資源を集中させるとなれば、10万2105施設(厚生統計要覧令和元年度)ある診療所もその影響をモロに受ける。地域内に分散された医療インフラを集約するためにも、整理統合や規模拡大が促されていくだろう。

 つまり今、議論になっている「生産性向上のために中小企業の合併・統合を促す」政策と同じようなことが、町の医院、個人クリニックにも起きるかもしれないのだ。

 町の医院、個人クリニックの業界団体である日本医師会にとって、そんな暴論は断じて認められない。中小企業の業界団体である日本商工会議所が「中小企業再編」に頑なに反対しているのとまったく同じだ。

 地域に大小さまざまな病院があふれている国は、一見すると医療が充実しているように見えるが、「人」という限りある医療資源をそれだけ分散させていることでもある。医療従事者の数に対して病院や病床という「器」が多すぎるので、1人当たりの負担が重くなって結果、医療現場を弱体化させている。これが、世界一病院が多くて、世界一手厚い日本の医療が、欧米の数十分の一程度の感染者で崩壊寸前になっている理由だ。

 人口右肩上がりの日本では、「大きい」「多い」は無条件で素晴らしいことだとされてきたが、もはやそういう時代は終焉(しゅうえん)を迎えた。

 調子にのって広げすぎたインフラをこれからどうやってたたんでいくのか。日本人としてはなかなか受け入れ難い現実だが、いい加減そろそろこの問題と向き合わなくてはいけないのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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