2021年は「呪術廻戦」が“ネクスト鬼滅” 「〇〇の呼吸」はもう時代遅れに?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2021年01月01日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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週刊少年ジャンプで高まる“新陳代謝”スピード

 従来の週刊少年ジャンプといえば、ONE PIECEやドラゴンボールなど、長期間にわたって愛されている長寿タイトルを主軸において、「ジャンプ」ブランドを今の地位まで押し上げてきた。

 週刊少年ジャンプにおける看板作品の連載終了は、おおよそ2年程度の間隔で行われてきた。12年には「家庭教師ヒットマンREBORN!」、14年には「NARUTO」、16年には「BREACH」といったペースだ。しかし、18年には77巻続いた「銀魂」連載終了から、人気長寿作品の連載終了ペースが加速している。19年には36巻続いた「食戟のソーマ」、そして20年には45巻続いた「ハイキュー」など、さまざまな長寿・大型タイトルが相次いで連載終了となっている。そして、鬼滅の刃も20年の5月に惜しまれつつも連載が終了した。

 「週刊少年」の名を冠していることもあり、数年にわたって連載が続く作品が誌面の多くを占めてしまえば、ジャンプを読み始める年頃となった新規の読者が話に追いつくことが難しくなり、新たな流行を読者として作り上げていくという体験ができなくなってしまうおそれがある。人気の作品も、引き延ばすことなく終わらせることで、名作を名作として完結させている。

 ただし、むやみに人気の源である作品の新陳代謝スピードを高めれば後続が生まれず、収益を低下さてしまうデメリットもある。しかし、そのデメリットを克服する新しい“型”が鬼滅の刃の事例で生まれたのではないだろうか。

途切れさせない仕掛けの“型”

 集英社における鬼滅の刃の成功事例は、呪術廻戦の仕掛けにも大いに役立っているといえるだろう。両作品が人気度を獲得した要因はいずれも「アニメーション」をフックとし、楽曲やコラボなど各種施策をミックスして仕掛ける戦略だ。

 コロナ禍における在宅時間の増加は、可処分時間(≒余暇)の争奪戦をより一層激しいものにしている。これまでは、本来外食や旅行に消費されるはずだった時間や金銭は、主にゲームや音楽、その他のコンテンツ配信といった自宅で完結する娯楽に消費者を向かわせた。その結果、比較的高品質な据え置き型ゲームが大幅に増益する反面、スマホゲーム各社がさえない決算となるなど、これまでの構造が逆転する場面もみられた。

 漫画業界も例外ではない。これまでは、漫画の人気がアニメなどの人気を押し上げる構造となっていたが、近年では漫画を読まない消費者が高品質なアニメーションをきっかけに漫画へ流入するという逆転現象が起きている。

 これは鬼滅も呪術も、共に検索ボリュームが高まったタイミングからも観測できている動きだ。さらに、劇場版 鬼滅の刃「無限列車編」が「千と千尋の神隠し」の興行収入を上回ったのも、広く娯楽におけるライバルが不調な中、消費者の可処分時間、可処分所得を捉えることに成功したことも大きな要因の1つだ。

 人気の絶頂にある作品を連載終了とする決断はなかなか取り難い選択肢でもある。しかし、コンテンツの新陳代謝が高まることは、集英社が今後も「新規で魅力的なコンテンツを途切れることなく仕掛けられる」という自信の表れとも捉えられる。

 週刊少年ジャンプの競争相手は、もはや漫画業界だけでなく、アニメや映画といった異業種の娯楽にまで拡大している。コロナ禍における不確実性の高い足元の市場環境においては、「呪術廻戦」と同じくらいに、集英社における競争領域の展開の行方にも注目していくべきだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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