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求められる「要約力」 いかに短い言葉で人を動かすか 組織の日常のコミュニケーションで育む「書く力」(1/2 ページ)

» 2021年01月19日 07時00分 公開
[リクルートワークス研究所]

リクルートワークス研究所『Works』

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 『Works』は「人事が変われば、社会が変わる」を提唱する人事プロフェッショナルのための研究雑誌です。

               

 本記事は『Works』163号(2020年12月発行)「組織の日常のコミュニケーションで育む/サイバーエージェント 曽山哲人氏 × 河合塾講師 小池陽慈氏」を一部編集の上、転載したものです。


 組織の日常で求められる書く力とは何か。また、それをどのように育むのか。メディアでの発信をはじめ、表現することの大事さを社員に常に説くサイバーエージェントの曽山哲人氏と、受験指導で生徒に読むこと・書くことの大切さを教え続ける河合塾講師の小池陽慈氏の対話によって明らかにしたい。

問い1 組織の日常で求められる書く力とはどのようなものか

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曽山 組織の日常において関わってくる書く力とは、人を動かす言葉を生み出すことに尽きます。それは、できるだけ短い言葉のほうがいい。リモートワークが多くなって顔しか見えず、その場の空気や体験の共有がないとなると、ものすごく情報量が減ります。すると、言葉と音の価値が “爆上がり”する。それに気付いているリーダーは、今、急いで言葉を磨いています。

 私自身の話をすると、サイバーエージェントに入社して6年間は、広告の法人営業を担当していました。当時、企業向けに広告のコピーなどを作っていましたが、組織のマネジメントやリーダーシップにおいて重要だという認識はありませんでした。指示命令型のマネジメント手法しか知らず、なぜ部下は私の言っていることが分からないんだ、何で動かないんだと、憤る日々でしたね。

 そして、営業の副責任者になった頃、会社の組織活性化プロジェクトのメンバーに入りました。そのプロジェクトの旗振りをやっていた当時の副社長が広告代理店出身で、とにかく社内の制度はネーミングが大事という考え方の人でした。そこからサイバーエージェントの人事制度や取り組みはネーミングが工夫されるようになったのです。

 例えば、「休んでファイブ」。リフレッシュ休暇の言い換えです。制度はもともとあったのですが、当時は取れる雰囲気ではなかった。名前が変わって“口触り”が柔らかくなると、社員同士で「休んでファイブ取った?」と言葉が流通するようになります。結果、制度の中身は変わっていないのに、利用率が上がりました。言葉が流通すれば、人は動くのです。

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小池 このように力があって、端的に内容を表す言葉は、その内容の全体の意味を捉えていてこそ生まれます。大学入試では、長文を読んで「本文の論旨をまとめなさい」「タイトルをつけなさい」という問題が出ます。筆者の主張を把握して、内容を端的にまとめることができるかどうかを問うています。このとき、文章から強い言葉を1つ探してそれを書くだけでは、不十分な解答である場合が多いのです。こういう問題を解くには、まずは文章全体の論理展開を押さえる必要があります。たいていは話題が提示され、その論拠が続き、まとめがある、というような展開で書かれていることが多いですが、そういった構造を整理すれば、筆者の最も言いたいことが理解できます。

 大学入試でこういう出題をされるのは、大学でアカデミックな分野を学ぶとき、どの領域でも、先人の書いたレポートをしっかりと読み込み、それを理解してさらに新しい知恵を紡ぐことが求められるからです。そのため、その力があるかどうかフィルタリングしているのです。

曽山 大学だけではなく、それこそが組織で求められる力だと思います。私はよく「要約力」という言葉を使います。例えば全体として100単語分、大事なことがあるとして、そのうちの1単語だけ選んで強く発信しようとするリーダーは少なくありません。しかし、本来は 100を全部見たうえで、要約された新しい“1”を生み出す、あるいは100以上のパワーにすることが求められているのです。先人が紡ぎ出した知恵を統合して何が言えるのかを把握し、今の時代や状況を鑑みてどういう言葉で伝えるのがいいのかをしっかり考えることが大事です。

問い2 SNSでの発信は、書く力を育むことにつながるか

小池 曽山さんご自身は、なぜ自ら発信しようと思ったのですか。

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曽山 2003年にブログを書き始めたのは、サイバーエージェントはすごくいい会社なのに伝わっていない、伝えたい、という思いからでした。書き続けるうちに、自分が面白いと思うこと、伝えたいことを素直に表現することはとても大切だと感じるようになったのです。

 特に、人は頑張っていればいるほど壁にぶつかります。そのとき、前に進むために人間は考えるしかありません。考えることとは言葉にすることですから、何か書いたり、表現したりするのです。社員にも、「とにかく、発信したほうがいい」と伝えています。まずは、社内への発信でいい。仕組みとしては日報という形で、今日やったこと、それによる学びや感想を部署のメンバー全員に送ってもらっています。若手が日報を送ると、先輩たちは「いい学びだったね」「応援しているよ」などと反応します。

 さらに、ソーシャルメディアを使うなどして、社外に発信することも推奨しています。実際はやはり心理的なハードルが高く、発信を躊躇(ちゅうちょ)する人も多いのですが、成長の機会になるからやったほうがいいと常々言っています。私自身も、今でもブログを書き続けています。

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小池 ソーシャルメディアに関しては、否定的な意見もあります。確かに、文章を書くことはメタ認知をしながら深く考えることであり、自分の思ったことをそのまま発信して、“いいね”をもらうだけでは、書く力をつけることにはつながりません。ただ、頭のなかで考えているだけでは文章はまとまらないのも事実です。

 生徒たちが文章を書こうとするときには、メモ書きでいいから書き出しなさい、と伝えています。何か書いては消して、また書いて、を繰り返して結局ぐちゃぐちゃになってしまった答案をよく見ます。頭のなかの情報をいきなり記述して、あ、違う、と思うからです。いったん、ちゃんと構想メモを作って思考を進めてから、答案としてきちんと書くというプロセスが重要です。アウトプットしてみてじっと見る。そこに気付きがあります。だからTwitterのようなメディアをメモ書きのツールとして捉える方法もあります。

 また、Twitterのような短文でも、構成をじっくり考えてから発信すれば、書く力を鍛えることにつながります。私自身、Twitterはかなり使い込んでいて、それ自体が楽しいから何も考えずに、一言発信することも少なくありません。一方で、例えば冒頭でネタをふって、具体的な論拠を並べ、最後に結論、というふうにきちんと構成した投稿は、結果として、バズることが多いのです。

曽山 面白いですね。なぜだと思われますか。

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