デジタル時代の人材戦略、3つの実践ポイント いかに組織を変革していくかデジタル時代の人材マネジメント(2/2 ページ)

» 2021年01月22日 07時00分 公開
[横内慧一ITmedia]
前のページへ 1|2       

 人材戦略策定時に役員層で人材戦略の方向性を審議する際には、「自分たちがどうありたいかを最大限描き、実現したい状態を共有化して、新しい取り組みを始める」というポジティブアプローチがキーとなる(図表2)。

photo (図表2)

ポイント3:役員とCHROが現場管理職を共鳴型で巻き込む

 人材戦略に限らず、役員層や本社機能が戦略を策定し現場を従わせる(一方通行で浸透させる)というアプローチでは、現場にはやらされ感が蔓延(まんえん)し本来の目的に沿った運用はできない。

 役員層と現場管理職が対話を重ね、デジタル化の本質やそれに伴う人材・人事戦略の変革を自分事として捉えて自分で考え実践する場が必要となる。

 例えば、デジタル人材獲得のために、報酬制度において外部市場価値連動型の職務給への転換なども手法として存在するが、職務給の制度設計および運用面で、現場管理職に自分事として捉えてもらえるように巻き込むかがキーポイントになる。

(1)「職務の定義づけ」における現場管理職の巻き込み

 職務に対して処遇するためには、まず組織内にどのような職務が存在するかを棚卸しすることが必要である。そして既存の職務がデジタル化によって効率化・省人化され、その職務そのものの価値の大きさが変更されるケースや価値自体が無くなるケース、デジタル化を実現するために従来存在しなかった新たな職務を定義する必要もあるだろう。

 既存の職務の棚卸しはもちろんのこと、デジタルによる新たな職務定義付けを、現場から距離がある人事部門が主導することは困難であり、現場管理職に主導してもらう必要がある。

 デジタル化によって市場価値連動型の職務給が次第に会社内に浸透する状況において、現場管理職による「職務の定義付け」は大変重要な人事機能となる。職務の定義づけでありながら、どうしてもその職務を担当しているヒトの顔が見えてしまい温情主義に陥ってしまうことで、本来的な定義づけができなければ、過去の伝統的日本企業が先送りしてきた人事改革の二の舞となってしまう。

 このため本社人事部門は、現場管理職が適切な「職務の定義づけ」ができるために、職務定義(ジョブディスクリプション)のひな型・基準や「職務定義」の書き下し方の粒度等を示しながらサポートする必要があるし、役員は現場管理職が部分最適で近視眼志向に陥らないように視座を上げるよう働きかけ続けなければならない。

(2)「責任・成果の明確化」における現場管理職の巻き込み

 現場管理職は職務の定義づけの後に、その職務ごとの責任および求められる成果を明確にして人事管理上の等級(職務等級・役割等級・ジョブグレード)に格付けをする必要がある。格付けされた等級に応じて報酬が決定するため、社員に対して職務の成果・責任の大きさや等級格付けには説明責任を負うことになる。デジタル化によって新しいビジネスだけではなく、既存のビジネスや業務に関しても会社から期待される成果や責任の大きさは変容していく。

 職務等級への格付けの結果、従来は業務の難易度も高く専門性も必要な職務が新たなテクノロジーによって価値が下がり、等級格付けが下方に移動することが頻繁に生じてくる。逆にデジタル化によって新しい事業領域が拡大し、収益期待が拡大する職務では等級格付けが上方に移動し処遇が上昇することも生じる。

 必然的にそれぞれの職務を担当しているヒトの処遇は逆転する状況が発生するが、その説明責任を負うのは本社人事部門ではなく現場管理職である。年功序列の処遇が崩すことになる職務等級の格付けをやり切ることが必要である。

 このように職能等級に比べて職務等級では制度設計面においても運用面においても、現場管理職側に多くの人事管理(HRM:Human Resource Management)機能の発揮が求められる。現場管理職が本社側で決定された人事制度を運用させられている状態から、事業戦略の実現性を担保する人材戦略の運用・実行主体者であるとの認識をし、人材・人事領域の検討や運用に参加することが求められる。

著者紹介:横内慧一(よこうち・けいいち)

株式会社野村総合研究所 コーポレートイノベーションコンサルティング部 組織人事・チェンジマネジメントグループ コンサルタント。

東京理科大学経営学部卒業。2016年野村総合研究所入社。

国内大手企業の人事制度改革、定年延長や廃止に伴う人事制度設計、IT子会社の人材戦略策定及び人事制度設計、ミッション・ビジョン策定、経営候補人材のリーダーシップ開発プログラムの策定及び提供、マネジメントの意識改革(1on1の導入)などのプロジェクトに従事。

専門は人事・人材戦略、人事制度設計、組織開発。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.