米ゲームストップの暴騰・暴落劇 裏側で親たちに利用されるジュニアNISAの惨状古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2021年02月05日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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証券会社ロビンフッドが売買を停止した理由

 しかし、このような個人投資家の逆襲は思いもよらない形で“溶け合い”となる。きっかけは、先月28日に米大手証券各社が、ゲームストップの株式や関連するオプション取引等を制限したことによる。

 本来、米国における金融商品取引制度下では、証券取引には日本と同じく約定日から精算までに2日(T+2)のタイムラグがある。このラグの間に精算ができないリスクに対応するため、保証金の差し入れが求められる。顧客資産と分別管理されている資金の中で保証金を工面する必要性があるため、顧客がゲームストップを買えたからといって保証金が充当できるとは限らない。今回、ロビンフッドをはじめとした証券各社が、ゲームストップ株式の購入を停止した措置の裏には、そのような財務的側面の判断が入ったことが大きい。

 しかし、この対応は個人投資家に誤ったメッセージを提示してしまった。新規の取引が制限されるということは、空売りを行っているメルビンキャピタルのような強者を保護する対応にもなってしまい、後続の買いを期待して参入した買い手の個人投資家にとっては、マーケットに介入する余地がないはずの証券会社によって、後続が強制的に排除された形になるからだ。

 その結果、小規模なものでも数十万人、大規模なものでは1400万人にも登るコミュニティで「次のゲームストップ」を探る動きも出ており、その対象は株式にとどまらずDOGEコインといった仮想通貨などにも及んでいる。個人投資家 vs. 機関投資家という対立構造が、幅広い分野で投資家を巻き込んでくる可能性があり、注意が必要だ。

ジュニアNISA「廃止」、でも本質は変わらない

 ジュニアNISAという長期投資制度を使ってゲームストップを購入した親世代は、「値上がり率ランキング」などに着目して資金を投じたとみられる。しかし、ランキングの裏付けは明らかに長期投資に馴染(なじ)まない。

 ジュニアNISA を巡っては、現実としてギャンブル同然の銘柄に子供のための資金が投じられてしまうという問題点がたびたび指摘されていた。20年の1月には、ジュニアNISAで,

日経平均が下落すればもうかり、上昇すれば損をする特殊な金融商品である「NEXT FUNDS 日経平均ダブルインバース・インデックス連動型上場頭身」が SBI証券の買付額ランキング1位になったことも物議を醸した。

 この銘柄は、その後のコロナショックで一時的に急騰したものの、ジュニアNISAの制度上子供が18歳になるまで非課税の恩恵を受けた状態で引き出せない縛りがある。したがって、一時的にプラスになったとしても、長期ではマイナスになる可能性が非常に高いハイリスクな銘柄はそもそもジュニアNISAの運用対象たり得ない。

 そんな問題点が多く指摘されてきたジュニアNISAも、実は23年末で廃止されることになった。ただし、今回指摘した問題点の本質はジュニアNISAの存否によらないはずだ。

 親世代の金融リテラシーが醸成されなければ、別の口座で同じことが起きるだけである。自身の資産や後世に残すための資金を運用するのであれば、単純な値上がり率ランキング上位から買うのではなく、なぜその銘柄がランキング上位に入っているかという背景を調べることがまず求められる。制度設計の観点からいえば、非課税口座のような道具そのものよりも、その“使い方”を浸透させる必要性が高まっているといえる。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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