コロナ禍で崩壊する「日本式・壁ビジネス」 改革途上の地銀が「統合」だけでは乗り切れなさそうなワケカギは「付加価値型」へのシフト(2/4 ページ)

» 2021年02月22日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 このような、制度や規制や業界風習に守られた壁は歴史ある業界に多く存在するわけで、今回のデジタル化の大波は、古い体質の業界における壁を根こそぎ崩壊に向かわせる破壊力をもっているように思います。

 長年、制度や規制や業界風習に守られた企業が生き残っていく方法は、新たな流れに対応した新たなビジネスモデルを作るか、あるいは壁が取り払われた後もそれに代わる付加価値を付けることで自社の製品・サービスの誘引力を保っていくか、いずれかに絞られるでしょう。しかし、古いしきたりに慣れ親しんだ企業が新たなビジネスモデルを作り上げることは至難の業であり、多くの企業は後者の付加価値型への転換がその主流策となるのではないかと思われます。

画像はイメージです(出所:ゲッティイメージズ)

脱・壁ビジネスのカギは「付加価値型」への転換

 そのヒントを、仲介事業の代表格といえる大手商社の事例から見てみましょう。彼らが、このデジタル化の大波で大きな影響を受けているのかといえば、それはないでしょう。なぜならば、彼らはただ単に商材を右から左に流すだけでなく、古くからクライアントに対してコンサルティング的なかかわり方をしています。その流れの中で最適なものを調達したり、時にはクライアント目線で調達先に新たなモノを作らせて納品したりと、そのビジネスモデルには十分な付加価値が存在するからです。この大手商社的な手法こそが、古い制度に守られた業界企業の付加価値型転換のヒントであるとも言えます。

 一方、古くから制度に守られた金融機関はどうでしょうか。まずは証券会社を見てみましょう。彼らは長年にわたり、株式をはじめ顧客と市場との壁を利用した売買仲介手数料を主な収益源としてきました。ところが90年代後半から、ネット証券の登場という形でいち早くデジタル化の洗礼を受け、手数料の劇的な引き下げ競争によってビジネスモデルの転換を迫られました。行き着いた先は、仲介業務からアドバイザリー業務に転じるという自立型の「脱・壁ビジネス」への転換であり、これがもはや21世紀型証券会社の基本姿勢となっています。

 同じ金融業で、より強固な法的制度に守られてきた銀行はどうでしょう。落ち着いて考えてみれば、直接金融市場から資金を引っ張れない大半の企業にとって、銀行は自社に代わって資金を集め貸してくれるという、市場と利用者との壁を駆使したビジネスを本業としてきた仲介業者です。ところがここに来て、中小事業者でもフィンテックを活用した非金融業者からの簡便な借り入れや、クラウドファンディングによる自力での資金集めが可能になり、銀行業にもいよいよ壁撤廃の動きが活発化してきたといえます。

 業界大手のメガバンク各行は、時代の変化を敏感に察知し、既に国内での融資業務を縮小しており、収益源を海外に求める方向転換を示しています。海外でのメイン業務は、M&A仲介をはじめとしたアドバイザリーなどのインベストメントバンキング業務となっており、証券会社の後を追うかのように、仲介業的ビジネスから自立型モデルへの脱却を図っているのです。

「脱・壁ビジネス」の時代、地銀はどうなる?

 さて、ここで最も気になるのは、今何かと話題の地銀(地方銀行)です。こちらは百年一日のごとく、旧来の預貸ビジネスに頼っており、マイナス金利政策下のここ数年は過去にない苦境に追い込まれています。この状況下でデジタル化の波が追い打ちをかければ、経営はいよいよ窮地に追い込まれます。菅総理が「地銀の数は多過ぎる、統合も選択肢」と発言して、一般に統合こそが地銀再生の解決策であるかのように思われていますが、果たしてどうなのでしょう。

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