「寿司業界」にこそ、日本経済復活のヒントがある理由スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2021年02月23日 09時17分 公開
[窪田順生ITmedia]
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経営者を救うか、労働者を救うか

 また、世界への発信力が上がった。

 スシローは2020年5月時点で、韓国12店舗、台湾16店舗、シンガポール3店舗、そして香港に4店舗を展開している。くら寿司も海外展開を加速させており、米国、台湾に続いて中国にも進出するという。このように大手チェーンが海外市場に進出すればするほど、日本の「sushi」のPRになることは言うまでもない。

 中国や韓国の企業が展開する「sushi」よりも、日本の寿司文化を正しく知れば、いつか海外渡航が解禁された時の訪日客にもつながる。この恩恵は大手チェーンだけではない。訪日した際には、「回転寿司じゃない寿司も食べてみたい」と「町のお寿司屋さん」にも足が向くかもしれないからだ。

くら寿司の特上極旨セット(出典:くら寿司)

 このような「寿司業界」の20年の変遷を振り返ると、「小規模・中小企業の減少」は悪いことで、彼らの倒産はとにかく避けなくてはいけない、という日本の経済政策に疑問を抱かざるをえない。

 競争力のない事業者などさっさと潰れてしまえばいい、といういわゆる「ゾンビ企業淘汰論」を主張したいわけではない。ただ、個人経営者が十数年間で4割も減少した寿司業界で、市場規模の拡大が起きて雇用が増加して、賃上げの動きが進んでいるのも紛れもない事実だ。また、その結果として、労働者だけではなく、われわれ消費者ひいては社会全体のメリットにもつながっているのも否定できない。

 大手回転寿司チェーンは、豊富な資金力でサイドメニューの開発や非接触システムなど次々と新たな取り組みを進めている。厳しい競争を生き残っている「回らない寿司」のチェーンや個人経営店も、回転寿司にはないネタの鮮度や職人技に磨きをかけ、さらに質のいい寿司を消費者に提供している。

 ちなみに、「町の小さなお寿司屋さん」が激減して、回転寿司が増えていくことに「あんなまずいものは本物の寿司じゃない」とかなんとか文句を言う人も多いが、そもそも寿司というのは、職人の顔色をうかがって緊張しながら食べるような高級料理ではなく、庶民が手軽に食べられるファストフードだった。そういう意味では、回転寿司は「寿司の原点」と言えなくもない。

 「小規模・中小企業の減少」は、経営者の視点に立つと「日本衰退の兆候」だが、労働者や市場全体、そして消費者にとっては悪いことだけではない。むしろ、プラスも多いのだ。

 日本が避けられない「小規模・中小企業の減少」という問題は突き詰めていくと、「経営者を救うか、労働者を救うか」という問題に集約される。コロナ禍の今だからこそ、寿司業界をヒントに日本の進べき道を考えてみたい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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