2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、働き方は大きく変化した。テレワークの導入により、オフィスを縮小移転した企業も少なくない。クリエイティブ・プラットフォーム事業を提供するピクスタもその一例だ。
ピクスタは、写真やイラスト、動画、曲といったデジタル素材を販売したいクリエイターと、素材を利用したい企業や個人をつなぐプラットフォーム「PIXTA」などを提供している。設立から15年目を迎えた20年、同社は大きな変化を遂げた。原則在宅勤務とするフルテレワーク(20年2月18日〜)や、コアタイムなしのスーパーフレックス制度(同年11月1日〜)を導入したのだ。
それに伴い、21年2月8日に約300坪あったオフィスから、面積が約3分の1のオフィス(東京・渋谷)に移転した。11室あった会議室・応接室も1室に削減し、Web会議やウェビナー収録を行う定員2人ほどのブースを2つ新設。固定席だった執務室内の約120席も、約20席のフリーアドレスとした。
フルテレワーク導入、オフィス縮小を進める上でどんな障壁があり、どのように対処してきたのか。ピクスタの秋岡和寿氏(戦略人事部 部長)と小林順子氏(経営企画部 広報)に聞いた。
秋岡部長は「(フルテレワークへ移行し)約120人いる社員のうち、毎月平均で5〜6人しか出社していない」という。出社人数が激減し、当初はシェアオフィスの利用も考えた。しかし「オフィスは企業の象徴であり、リアルなコミュニケーションを取れる場所だ。社員だけでなく、クリエイターたちに気軽に足を運んでもらえる場所でもある」(秋岡部長)と考え、縮小移転はしたが、オフィスを残すことにした。
フリーアドレスに移行したことで、万が一、コロナ感染者が出た場合の感染経路が不明になるのではないか、という懸念の声もありそうだ。しかし、入退出時に読み込むセキュリティカードにより、誰がどの時間にオフィスにいたのかを特定できるし、そもそも100坪の面積に5〜6人しかいない状況で密になることは考えにくい。
「対面で座るような配置ではないし、席同士も1.5メートル離れている。ソーシャルディスタンスが保てるようにしている」と秋岡部長。さらに「一つ上のフロアは人工芝を敷いた屋上になっている。入居者全員の共有スペースとして自由に使えるので、少し人が多いと思ったら、そこで仕事もできる。濃厚接触を避けられると考えている」という。
社員の健康を守るために、テレワーク主体の働き方を選択したピクスタ。マネジャーたちは、部下の仕事の進捗をどのように確認しているのだろうか。
ピクスタは前述の通り、Webでクリエイターとユーザーをつなぐプラットフォームを提供している。例えば、デジタル素材を販売するPIXTAサービスに関わっている従業員の内訳は、サービス開発のエンジニア、ディレクター、デザイナーが3割、クリエイターをフォローしたり、投稿作品をチェックしたりする部隊が4割、あとはバックオフィスや法人向けの営業担当者たちだ。バックオフィス部門以外は、テレワークとの親和性が高い業務内容といえるだろう。
それに加え、企業理念やこれまでの組織づくりも一役買っている、と秋岡部長は考えている。「ピクスタでは『自律自走』を大切にしている。メンバーそれぞれが当事者意識を持ち、自ら率先して役割を果たす、もしくは考えるようにしている。だから、誰かに見張られていようといまいと、自分のなすべきことを行う。そういう素地ができていた」
自律自走を促すため、フルテレワークに入る前から、可能な範囲で経営会議の議事録も公開していた。現在は、Zoomで行われる週次レビュー(月次報告会のようなもの)を見学できるようにしている。「情報格差があると、視野が狭くなるから自分がどの位置にいるか見えてこないし、マネジメントする側も難しくなる。フルオープンだからこそ、フルテレワークに振り切れたのかもしれない」(秋岡部長)
だからといってコミュニケーションをおろそかにしているわけではない。例えば小林氏は社内向け広報活動の一環で、各部署が取り組んでいることを集めて発信している。加えて、小林氏が挙げるのが「在宅勤務を語ろうチャット」だ。
同チャットについて、小林氏は「ビジネスの担当範囲や役割が違うと、積極的に収集する情報や触れる情報が異なってくる。自分の得た知識や情報を気軽にシェアして皆が同じ情報に触れられるよう、14年ごろに社内で立ち上げた『ワイガヤチャット』から派生したものだ」と話す。「腰が痛くならない椅子や、使っているローテーブルのうまい配置方法、オススメのネックスピーカーなどのお役立ち情報のほか、在宅勤務で得られた気付きなどを共有している」という。
「ベッドにローテーブルを置いて仕事するスタイルは、ベッドで優雅にモーニングをとる貴族の朝食スタイルのようでいて、現実とのギャップが激しい──といった雑談で盛り上がることもあります」(小林氏)
秋岡部長は「オフィスにいれば、相手を目にすることで気配を感じ取れるが、場所が離れていては難しい。そこで各チームで、DiscordやGoogle Meet、Zoomなどを、カメラをオフにした状態でつなげておいて、いつでもやりとりできるようにした。『今、ちょっとつらい』などと悩みを相談しやすい関係性を構築できるように工夫している」という。
ただし「これが正解、ということはなく、もっとやりようがあるのではないかと試行錯誤中だ」と秋岡部長は話す。
同社では、在宅勤務で生じがちな“中抜け”にも対応した。コアタイムなしのスーパーフレックス制度を導入したのだ。
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