なぜ京急で社員からの「内部告発」が相次いでいるのかスピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2021年03月30日 09時47分 公開
[窪田順生ITmedia]

何かしらの「予兆」

 これが内部告発の本当の恐ろしさだ。単発の内部告発は実は組織にとってそれほど脅威ではない。「事実関係を調査します」とか「申し訳ありません、再発防止につとめます」とかなんとか言ってやり過ごしているうちに世間は次のスキャンダルに関心がいって忘れてくれる。最悪、会見などで吊(つ)るし上げられてもそれは一過性のものだ。

 しかし、日本郵政のように不特定多数からの内部告発が相次ぐようになったらよくない。報道が次の内部告発の呼び水になるので、内容がどんどん深刻で悪質なものへとエスカレーションしていくからだ。「ニュース見ましたけど、ウチの事業所ではあんなもんじゃなくてもっとひどいことやってますよ」なんて感じで、まるで報道と競い合うように、社内の不正行為について情報提供してくれる人を、筆者もこれまで何人も見てきた。

日本郵政も内部告発が続いた(出典:ゲッティイメージズ)

 このような経験を踏まえると、京急の内部告発が活性化しているのも、現場の反乱が本格的に始まる前の、何かしらの「予兆」のような気がしてならないのだ。

 では、この反乱が起きたらどうなるのか。考えられるのは、鉄道の安全な運行に関わる致命的な問題が内部告発によって明らかになるとか、現経営陣の定めた方針を根底から見直さなくてはいけないような話が表沙汰になるとかではないか。

 なぜそんなことを思ってしまうのかというと、京急が「古い考え方」に基づく企業だからだ。鉄道ファンの方ならばご存じのように、多くの鉄道会社が運行の際、ITを導入していく中で、京急は人の手による作業にこだわっている。そんな人間本意さがゆえ、トラブルにも強く、遅延も少なく、災害での運行停止からの復旧も早いなどと評価されている。伝統的な運行技術を守っているところが、沿線の住人や、鉄道ファンから「神運転」と愛されているゆえんだという分析もある。

 ただ、これは見方によっては「ブラック企業」と言えなくもない。現場で実際に運行をしない経営陣や、ユーザーからすれば「機械に頼らない熟練の運転士」は素晴らしいのでもっとやれとなるが、実際にやらされているほうはたまったもんじゃない。他社の運転士のように、最新テクノロジーに頼って、効率的に運行したほうが、個人の負担が減るのだ。

 実際、京急の労働組合のアンケートには、「古い考え方」を押し付けられてへきえきしている現場の憤りが伝わるような文言が並んでいる。

 「個人を駒ではなく人間として扱ってください」

 「顧客満足度は上位かもしれませんが、従業員満足度は最低です」

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