リテール大革命

サービス産業の苦役に潜む、日本独自の体質とは?労働人口の半分以上が低賃金(2/3 ページ)

» 2021年04月27日 10時47分 公開
[西田めぐみITmedia]

日本は“自社オリジナル”がお好き?

 「日本独特の体制として挙げられるものに、オンプレミスがあります。つまり、店舗運用に関わる機械を自社で作っているわけです。80年代のシステムが現役で使われていることも珍しくありません」(染谷氏)。

 オンプレミスで問題になってくるのが、コストの高さだ。自社オリジナルであるがゆえに、管理運用にお金がかかる。保守の外注先も大手メーカーになりがちで、そこが高くついたとしても頼まないわけにいかず、結果として無駄な出費がエンドレスで続く。現在、海外のサービス産業の多くはクラウドシステムを導入しているという。オンプレミスと比較すると、初期費用を安く抑えられ、ベンダーが保守運用までカバーするため全体的なコストは大きく下がる。

 はたLuckを顧客に説明する際も、先方にまず「カスタマイズができるのか、聞かれることが多いですね」と染谷氏は言う。「うちの会社専用に作ってくれるんですか、ということです。“自前主義”というのは、日本サービス産業界の一つの特徴なのかもしれません。しかし、それでは結局、構築・管理運用、保守に余計なお金がかかるわけですから、同じことの繰り返しです」

photo 自社だけのシステムは運用にお金がかかる(画像はイメージ、写真提供:ゲッティイメージズ)

多様性に欠けイノベーションが生まれない

 なぜコストが高いオンプレミスが主流なのだろうか。そこにかかってくるのが、サービス産業の多様性を欠いた環境、そして賃金の低さである。

 「他業種で導入が進んでいるような、汎用性が高く便利なツールを取り入れようという発想が生まれにくい環境ではあると思います。今まで自社オリジナルだったんだから、これからもそうだよねと、延長線上で考えてしまう。そこには採用面の影響もあるでしょう。集まるのは、『接客が好き』『ホールで働くことが好き』という人が多い。もちろん、それは大事な価値観です。でも、ほかの産業への就職を選ぶような異質な人間は採れない。その理由として、賃金の低さは無視できません」(染谷氏)

 サービス産業は、他業種と比較して年齢に応じた賃金カーブがゆるやかな傾向にあるという。これはサービス業という構造上の問題もはらんでいて、例えば飲食店なら、席数と単価で1カ月の売り上げ上限はだいたい決まってくる。10年選手の敏腕店長だろうが、経験の浅い新人店長だろうが、2倍3倍にすることは容易ではない。そのため、勤続年数に応じて賃金を上げにくいという現実がある。

photo 異質な人たちが集まった職場にこそ、イノベーションは生まれる(画像はイメージ、写真提供:ゲッティイメージズ)

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