攻める総務

法案成立も間近! 完全バーチャル株主総会を開催するための「3つの要件」バーチャル株主総会の現在地(前編)

» 2021年04月27日 05時00分 公開
[房野麻子ITmedia]

バーチャル株主総会の現在地(前編)

 インターネットを活用して遠隔地から参加・出席できるハイブリッド型バーチャル株主総会が注目を集めている。三菱UFJ信託銀行の調査によると、2020年6月の株主総会では、上場会社のうち、9社がハイブリッド「出席型」(株主総会に会社法上の「出席」をする)、113社がハイブリッド「参加型」(審議などを確認・傍聴する)でそれぞれ実施した。21年度からは完全バーチャル化(バーチャルオンリー型)に向けた法改正も進んでいて、現在開会中の通常国会に提出される見通しだ。

 このほど、ソフトウェアの開発・販売を手掛けるアステリアが、完全バーチャル株主総会の法案に関するセミナーを開催した。株主総会の完全オンライン化に向けた法案の概要について、森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士の澤口実氏が解説した。

photo アステリアが実施したオンラインの株主総会の映像。取締役や監査役がバーチャル空間で“登壇”している、それぞれ別の場所から参加=アステリア提供

改正法にのっとって定款を変更する場合

 上場会社がバーチャルオンリーで株主総会を開催できるように法改正が行われようとしている。一定の要件を満たした会社は、定款を変更すれば、今後継続的にバーチャルオンリー型株主総会を開催できるようになる。施行から2年間に限っては、経産大臣と法務大臣の「確認」を条件に、定款を変更しなくてもいい。

photo 産業競争力強化法の改正によって、バーチャルオンリー型株主総会を開催できるようになる

 定款を変更する場合は、招集の定款規定に「当会社の株主総会は、場所の定めのない株主総会にすることができる」という表現を付け加える。会社によっては、今後の株主総会はバーチャルオンリーにしたいので「場所の定めのない株主総会とする」という表現にしたいと思うかもしれないが、澤口氏によると「恐らくできない」という。産業競争力強化法(産競法)の条文に記されている表現が「できる」となっているためで、「する」という表現にはできない。

 また、バーチャルオンリー型株主総会を表す「場所の定めのない株主総会」という言葉は一般人にとっては分かりにくい表現だが、これも産競法の規定の表現なので、使わざるを得ないという。

 招集地を定めている会社が定款を変更する際は、リアルで行うときは従来通りで、バーチャルオンリーで開催もできるという表現もできる。より慎重にするならば、「場所の定めのない株主総会とする場合を除いて」従前の招集地で行う、というように定款を変更することが考えられるという。

photo 定款変更の方法

バーチャルオンリー型総会を開催するための「3つの要件」

 バーチャルオンリー型株主総会を実施するには要件がある。定款変更に加え、要件具備、行政の確認、取締役会決議の3つが必要だ。

photo バーチャルオンリー型株主総会を実施する要件

 1つ目は、経済産業省令・法務省令で定める要件に該当すること。この省令はまだ公表されていない。法案では「株主総会を場所の定めのない株主総会とすることが株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合」となっているが、この内容を具体化したものが省令になり、省令が定める要件を備える必要がある。また、その要件は株主総会ごとに必要となる。ただし、最初は大臣が確認するが、それ以降は会社が判断する。

 2つ目は、経産大臣と法務大臣の確認だ。確認がどういうプロセスで行われるかは、はっきりしていないが、重要なのは「確認」という表現だと澤口氏はいう。「認定」「認可」などの言葉に対し、確認のプロセスは比較的軽いものが想定される。しかも、この確認は一度でいいということになっている。

 3つ目の要件は、取締役会決議が必要ということ。場所の定めがない株主総会とする旨を決議しなくてはいけない。また、経産省令・法務省令で定められるものも決議する必要があるが、澤口氏は「多くの上場会社にとって、要件のクリアが非常に難しい可能性は低い」としている。

 6月総会の準備のため、詳細な情報を知りたい場合は、所管する経産省の産業組織課にコンタクトするとアドバイスがもらえるそうだ。

2年間は定款変更せずにバーチャルオンリー型が選択可能

 施行日から2年間は、定款変更せずにバーチャルオンリー型株主総会を選択可能だ。要件具備についての経産大臣・法務大臣の確認は必要だが、その上で定款変更なく実施できる。法案成立が間に合えば6月総会からバーチャルオンリー型株主総会が実施できることになる。21年5月施行ならば、21年と22年の6月総会で経過措置を利用できる。23年6月総会は定款を変更して臨まなくてはならない。

photo 施行日から2年間は、定款を変更せずにバーチャルオンリー型株主総会を開催できる

 ただし、経過措置を利用した株主総会では「場所の定めのない株主総会とすることができる」旨の定款変更ができないので、21年はバーチャルオンリー型とするか、総会そのものはハイブリッド型に留めて定款を変更し、来年以降バーチャルオンリー型ができるようにするかの選択が必要になる。

 バーチャルオンリー型では通信障害への対策も必要だ。今回の改正法では、株主総会の途中に発生した通信障害については、一定の対策が盛り込まれている。

 株主総会の最初に、「途中で通信が遮断した場合は議長の判断で延期・続行の決定をする」ということを問うておけば、株主総会の途中で想定外の事態が起こっても継続会ができるという規定だ。

 これは株主総会の最初に、そう決議ができた場合に限定される手当なので、そもそも最初から通信障害で株主総会を開催できない場合は、この規定を利用できない。また、これは継続会(延期または続行)が可能となる制度。当日に総会を終わらせなくてはならないという会社が多いはずだが、そういう場合は使えない規定になっている。

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