攻める総務

実現間近か、株主総会の“完全”オンライン化 最大の課題は「場所」の定義先行する企業に聞く(1/2 ページ)

» 2021年02月17日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 株主総会の完全オンライン化を認める動きが活発だ。株主総会のリアル会場を設けずに、バーチャル空間で実施しようという取り組みだ。政府は2月上旬に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」を閣議決定した。この法案の中に「バーチャルオンリー株主総会の実現のための特例」という項目があり、第204回通常国会(本国会)での成立を目指している。背景には、新型コロナウイルスへの対応や、国が進めるデジタル化に向けた方針がある。

 完全オンライン化に向け、現状どのような課題があるのか。東証1部上場のアステリアのトップとシステム担当者に取材した。アステリアでは、自社で構築したシステムを利用して昨年6月の株主総会を「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」形式で実施。経済産業省の研究会でも参考として取り上げられているほど、先進の事例だ。

photo アステリアが実施したオンラインの株主総会の映像。取締役や監査役がバーチャル空間で“登壇”している、それぞれ別の場所から参加=アステリア提供

現行の会社法では、リアルな「場所」が必須

 国は、コロナ禍以前から株主総会の完全オンライン化への取り組みを進めていた。経産省は、19年8月から「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」を設置してオンライン化を議論。同省のガイドラインでは、オンライン株主総会を3つの方式に分類している。

(1)ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

 リアル会場の配信映像を、株主がネット経由で視聴可能な方式。ただし、一方通行に視聴するだけで、投票や質問は行えない。

(2)ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

 リアル会場の配信映像を、株主がネット経由で視聴することが可能。加えて、パソコンやスマートフォンなどを介して投票や質問を行える。

(3)バーチャルオンリー型株主総会

 リアル会場を設置しないで、バーチャル空間だけでの開催。株主は、パソコンやスマートフォンなどを介して議決権の行使や質問を行える。

 特例が認められていない現行法下では、(3)は実施できない。現行の会社法には、株主総会を招集する場合に「日時及び場所」を決めるよう明記している。場所は、あくまでもリアル会場でなければならないという立て付けだ。そのため「バーチャルオンリー型株主総会」を実施した場合、法にのっとった手続きではないということになる。決議などが無効になり、総会が不成立になる。

photo アステリア代表取締役社長・平野洋一郎氏。20年6月にハイブリッド出席型バーチャル株主総会を実施した(取材はオンラインで実施)

 アステリアの平野洋一郎社長は、「解釈変更で仮想空間のURLも“場所”として認めてもらえないかと、関係者と共に努力したがダメだった」と無念をにじませる。「サイト」(site)には「場所」という意味もある。賛否は別にして、憲法を解釈変更し集団的自衛権の行使を容認した政権もあるだけに、不可能な話ではないように思えるが「他のルールなどとの整合性が取れないと、法務省が首を縦に振らなかった」(平野氏)そうだ。

通信障害への対処方法は? 議決権行使の手順は?

 昨年、アステリアが実施した「出席型」の株主総会では、プロ向けの映像配信サービスを利用して総会の模様をライブ配信した。議決権を有する株主は、9567人で、そのうち2900人が「出席」している。リアル会場に出向きリアル参加した株主もいれば、一部はバーチャルで参加した。興味深いのは「リアル会場の出席者も、登壇者の映像を別室から視聴しながら、手元のスマートフォンなどを経由して投票や質問を行った」(平野氏)という点だ。

 つまり、リアルとバーチャル共に、映像を見ながらリモートで投票や質問を行うという形式だったので、リアル出席もバーチャル出席もシステム上は同じ扱いだったということになる。「法律に照らした場合、リアルな場所が必要だったので用意したが、仕組み的には完全バーチャル。従って、バーチャルオンリー型株主総会が認められれば、現状のシステムをそのまま利用可能」と平野氏は胸を張る。

 ただ、通信障害により、映像を見ることができなくなったり、投票などができない状況もあるのではないか。オンラインの株主総会で最も多く語られる懸念事項だ。どのように対処すればよいのか。

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