『ヤングジャンプ』編集者に聞く、スタートアップ漫画『スタンドUPスタート』ヒットの舞台裏ビジネス漫画のヒット術(3/5 ページ)

» 2021年04月29日 07時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

オイシックス社長、ユーグレナ社長 漫画をヒントに起業

――週刊連載では、どれくらい先まで原稿を用意しているのでしょうか。

春日井: 連載を始めるときには4話分くらいまでですね。でも連載が始まるとあっという間に追いついてしまって、次の締め切りがすぐに来る状態になります。私が入社して一番驚いたのは、漫画は先が全く決まっていないことです。

――週刊連載なのに、先が決まっていないのですか。

春日井: 漫画は本当に先が決まっていません。イメージとしては作家の先生方がリアルタイムで考えてくださっている感じです。

塚本: もちろん先生の中では、こんな流れにしていこう、こんなエピソードを書いていこうという考えはあると思います。でも、考えているストーリーを単に順番に描いていくのではなくて、リアルタイムで打ち合わせをし、リアルタイムで描いていただいています。

春日井: 読者の反響を見ながら変えている部分もありますね。

――『スタンドUPスタート』を監修している上野豪さんは、グロービス経営大学院でマンガとビジネスの関係を研究して、『神マンガのストーリーで学ぶMBA入門』を出版しています。「マンガにはMBAで学ぶことが全て書かれている」とおっしゃっていますが、これはどういうことでしょうか。 

上野: 「漫画で仕事が救われた」とか「この漫画があったから起業した」とかいう話を聞いたことはありませんか? 実は、有名な起業家にも、漫画に影響を受けたと話している方が結構います。

 面白法人カヤックCEOの柳澤大輔さんや、オイシックス・ラ・大地社長の高島宏平さんは、『サンクチュアリ』に影響を受けたそうです。ユーグレナ社長の出雲充さんは自分の座右の書と愛読書に『ドラゴンボール』と『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を挙げて、起業をする上でのヒントになったと語っています。

 漫画がどれだけビジネスに影響を与えているのかを調べたくなって、グロービス在学中に最後の研究課題として、経営者を含めたビジネスパーソン300人にアンケートをとりました。集計すると、79%の人が「漫画が仕事に影響している」と答えていました。アンケートの回答をもとに、この漫画ではこういうことが学べると体系化したのが私の本です。

――グロービス経営大学院の研究プロジェクトから生まれたということで、田久保さんに伺います。漫画とMBAはあまり結びつかないような気もしますが、なぜ漫画を研究対象に選んだのでしょうか。

田久保: MBAで教えようとしていることに、最先端の物理学や数学といったような、超難解なものはありません。でも、経営学が難しいのは、感情を持っている人間がビジネスをするからです。個人的には経営学は「人間理解学」だと思っています。人間は、ある事象に対峙した時に、どういう感情になって、どういう時にミスをするのか。当たり前のように見えることが、なぜうまくいかないのか。最後は人間の心をどう動かすのかが重要になります。

 人間の心を動かすのは、漫画が得意としているところですよね。MBAで議論していることは、日本の優れた文化である漫画の中で、全部説明されているのではないかという仮説を持っていました。上野さんと運命的に出会い、研究を進めた結果、MBAでお伝えする内容の6割くらいは、すでに漫画に書かれていることを明らかにできたと思っています(笑)。

――上野さんに監修をお願いしたのは、どのような経緯だったのですか。

春日井: 私は以前、青年漫画誌『グランドジャンプ』の編集部で、監修者に入っていただく漫画を多く担当していました。放射線科を舞台にした『ラジエーションハウス』を担当していた時の監修者の方から「面白い方がいる」と紹介されたのが上野さんです。

photo 『スタンドUPスタート』

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