――『スタンドUPスタート』は、「人間投資家」と名乗る三星大陽が、生きづらさを抱えた人たちに可能性を見いだし、「スタートアップしよう!」と持ちかけて伴走するストーリーです。反響はいかがですか。
春日井: 現在単行本は2巻まで発売されていて、人気は高いですね。読者だけでなく、編集者からの評判も良い作品です。内部の人間から見ると、この作品は週刊誌では普通はできない作り方をしています。
――普通はできない作り方とは、どういうことでしょうか。
塚本: 毎週18ページの漫画を作ること自体、非常にハードルが高くて、普通の人ではなかなかできないことです。それに加えて、週刊連載では「次はどうなっていくのかな」と引きを作りながら、大きな流れを追っていく作品が一般的です。一方、『スタンドUPスタート』の場合は基本的には1話読み切りの形を取っています。
1話読み切り形式だと、毎回新しいキャラクターが出てきます。そのキャラクターが抱えている事情と、状況が良い方向に向かうドラマと、主人公の活躍を同時に描かなければいけません。さらにスタートアップがテーマなので、ビジネスのネタを入れる必要があります。そのネタ1本で連載を続けられるレベルの内容を、1週1週で使い切るというぜいたくな作りをしています。
密度が高いストーリーを1回のページ数におさめていて、しかも面白く作っているのは、担当編集者としてもすごいことをやっている印象ですね。
――連載開始は2020年6月発売の29号からです。コロナ禍の影響も含めたビジネスのリアルが描かれていますが、企画を立て始めたのはいつ頃からだったのでしょうか。
春日井: 連載を開始する1年ほど前だったと思います。渋沢栄一が主人公のNHK大河ドラマ『青天を衝け』が放送されることが決まっていた時期で、初代担当者がその点を意識しながら企画書を書いたと記憶しています。
――連載が決まるまでのハードルは高いと思いますが、企画はすぐに通ったのですか。
春日井: すんなり通りました。1回目でOKが出たと思います。ポイントは、キャラクター同士の掛け合いの面白さと、スタートアップを扱う企画性でした。印象的だったのは、当時の担当者がこの漫画を「志を持って作りたい」と提案したことです。起業は自分には絶対に無理だと思うのが前提ではなく、読者が起業を現実的に考えることができて、起業を考える人が少しでも増えてくれたら幸せだと、企画書に書いていましたね。
――企画書だけで判断するのでしょうか。
春日井: ネームという絵コンテの状態のものを3話分まで作っていただいて、新連載ネーム会議に提案していただきます。テレビ業界だと企画書だけで判断することもあると思いますが、出版社の特徴で現物主義と言いますか、企画が面白くても内容が本当に面白いかどうかが分からないところもあるので、ネームで判断します。
この会議でOKが出ると、基本的には半年先くらいの新連載が確定します。それまでの間にネームを作り変えていきます。福田先生にも連載が決まってからブラッシュアップしていただいて、2話目、3話目が全く違う形になり、さらに面白くなりました。
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