では、こうした取引手数料とは異なる収益モデルは日本では成り立つのだろうか。まずロビンフッドがやっているようなPFOFを日本で全く同じようにやるのは、メイカー/テイカーモデルではないこともあり難しい。「普通の証券会社もB2Bではどこでもやっている。しかしB2Cでやっている事例は少ない。ここまでの規模でやっているのはロビンフットだけではないか。フローがたいへん多いから可能になっている」(伊藤氏)
銀行口座との連携はどうか。日本でも、SBI証券と住信SBI銀行、楽天証券と楽天銀行をはじめ、auカブコム証券とauじぶん銀行など、証券口座と銀行口座を連携させるサービスは急成長している。しかし大きな違いは、銀行口座にある現金を収益化する手法にある。
米国ではコロナ禍で下がったとはいえ、安全資産である米国債への投資で1〜2%のリターンが見込める。ところが、日本国債の利回りはほぼ0%だ。これでは、現金を集めても別途リスクを取らなければ利益を生み出せず、同じモデルは成り立たない。
「ロビンフッドであればPFOFで成り立っている。チャールズ・シュワブもIFA手数料、銀行スイープの金利収入だ。こうした大きな収益源は、今の日本の環境、規制と債券金利を見ると日本で作るのは難しい」(伊藤氏)
ちなみにストリームは手数料は無料ながら、顧客の注文を東証だけでなくダークプールにも流し、ダークプールのほうが有利な価格で約定した場合は、差額の半分を受け取る形で収益化している(記事参照)。残りの半分は顧客に渡す。同様のスマート・オーダー・ルーティング(SOR)という仕組みを実装している証券会社は多いが、追随は難しいだろうと伊藤氏は見ている。
「理論上は難しくない。ただし取引システムのところにかなり手をいれることになる。差額を全部証券会社が受け取る、顧客に全部返すのなら簡単だが、全部返してしまっては収益にならないので、ストリームと同様の仕組みを作るのはなかなか難しいのではないか」(伊藤氏)
ただしIFAだけは別だと伊藤氏は言う。日本の証券業界でも、証券会社と証券営業の分離が急速に進んでいる。IFAの利用者は急速に増加しており、またSBI証券と楽天証券はIFAとの連携を進めている。
ネット証券を使い手数料無料で取引ができるようになったといっても、どんな銘柄を選んで、どんなタイミングで投資するかを専門家に任せたいというニーズは根強い。しかし、証券会社に所属する営業担当は、自社の収益のために、利益率の高い商品を積極的に売り込むなどの過去の慣行から抜け切れておらず、顧客側に立って投資実務を行うIFAが注目されている。
もっとも、どの証券会社も売買手数料依存から抜け出せるかというと、そんなことはないだろう。「チャールズ・シュワブは手数料無料化の前から、収益に対する売買手数料比率が小さかった」と伊藤氏が話すように、現在のメインの収益源を捨てて、新しいビジネスモデルに移行するのは容易なことではない。SBI証券のように、売買手数料比率がすでに小さいところでなければ、簡単には手数料無料化を進められないわけだ。
米国ではユーザーが手数料の多寡に敏感で、既存の対面証券会社からチャールズ・シュワブのようなオンライン証券に一気に顧客と資金が動いてきた。ところが、日本では未だに対面証券会社が強く、個人金融資産のほとんどは動いていない。その理由の1つは、米国ではIFAが浸透しており、顧客の資金を預かるIFAがより顧客にとって有利なオンライン証券に資金を動かしたためだといわれている。日本でも同様のことが起こるかもしれない。
「日本でも、この数年IFAが伸びる。顧客が対面証券会社ではなくIFAを選ぶ中で、資金が動いていくだろう」(伊藤氏)
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