クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

シリーズハイブリッド、LCAを考えると現時点でベストな選択高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)

» 2021年05月24日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

これから日本で生産するクルマはシリーズハイブリッドが最適である理由

 日産のe-Powerはエンジンと発電用モーター、走行用モーターと減速機を一体化している。これは専用開発されたパワーユニットとしては効率的だが、走行用モーターを独立させることができれば、さらに汎用性が高くなる。

 エンジンを発電専用とすることでプラットフォームに左右されにくくなり、搭載性の自由度が広がる。日産の各アライアンスで3種類ずつの発電専用エンジンを用意すれば、ほとんどの乗用車に対応することができるだろう。

 車重による負荷の違いや要求する動力性能は、エンジンの発電力だけでなく、電力を一時的に蓄えるバッテリーへの充電量をマネジメントすることと、モーターの搭載数でカバーできる。同じバッテリーパックでも、負荷の少ないクルマは蓄電量が減ってから発電すればよく、負荷の大きいクルマやモーター数の多いクルマはエンジンによる発電を常時行うことを基本仕様とすればいい。

 さらにシリーズハイブリッドは発電のためエンジンを搭載するが、ガソリンほどのエネルギー密度がなくても発電機を駆動することはできるから、燃料の自由度も高くなる。トヨタが挑戦を始めた水素エンジンでもバイオ燃料でも対応できる。

 日産はシリーズハイブリッドに使えるエンジンとして、熱効率50%の実現を目処にした高効率なエンジンの試作機を発表している。発電専用とすることで回転の上下動は抑えられ、最も効率の高い領域に集中して使えることで、エンジンはより有効利用できるのだ。

日産は発電専用エンジンとして、高効率なエンジンを開発しており、熱効率50%の実現に目処をつけている。これは走行用エンジンとしては考えられないほど効率の高いものだ。

 発電専用とすることで、これまでにないレイアウトのエンジンが採用される可能性もある。マツダのロータリーエンジンだけでなく、対向ピストンやタンデムクランク、さらにはガスタービンなどさまざまなエンジンが発電用として研究されている。

 走行用モーターは、軽自動車からCセグメントのハッチバックまでは1モーターの2WD、SUVやDセグ以上は2モーターの4WDでPHEVにすることで、かなりパワーユニットを共通化することができる。

 従来のエンジンや変速機の違いによる乗り味を楽しむようなことはできなくなるが、そもそも厳しくなるCAFE燃費をクリアするためには、大半のクルマはフルハイブリッドを選ばざるをえなくなる。パワーユニットで魅力を訴求できるクルマはごく一部になってしまうだろう。そこは割り切って、サスペンションやインテリア、スタイリングなどで差別化を図る方がメーカーもユーザーもメリットが出るというものだ。

 そうすればバッテリーパックの大きさについては、かなりの範囲の車格までカバーすることができるハズだ。そうなると、さらに次のステップが見えてくる。超小型モビリティはEVとして、軽自動車や普通車のシリーズハイブリッドと同じバッテリーパックを搭載する仕様とするのだ。

 これによってバッテリーパックが広く規格化できる。何社もの電池メーカーが同一規格のバッテリーを生産することにより大幅なコストダウンが実現できる。設計や生産設備、生産体制、さらにはリサイクルまでの流れが、すべて画一化されることで、これまでよりも生産量が上げられるだけでなく、トータルコストを引き下げられるはずだ。

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