「引退したオヤジたちで集まって、自分が持つノウハウや退職金の一部を投じて、ベンチャー企業や個人を支援をしたい。目指しているのは“バーチャル書生制度”です」
こう話すのは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授を12年務め、昨年3月に退官した古川享氏。アスキー取締役を経て、1986年にマイクロソフト株式会社(現・日本マイクロソフト株式会社)の初代社長に就任するなど、日本のパソコンの草創期に指導的役割を果たした人物だ。2003年から米マイクロソフトの副社長に就任。退職後は慶應義塾大学でベンチャー支援やメディア研究に取り組んできた。古川氏は、米マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツが最も信頼した日本人の1人と言われている。
大学を退官した古川氏は、今後も起業などを志す若い人たちを支援したいとして、バーチャルな組織を立ち上げようとしている。構想しているのは「明るい大人の悪巧(わるだく)み団」。会社やNPOなどの組織ではなく、「引退したオヤジ=明るい大人」がゆるくつながって、明治時代の書生制度のように若い人を支援していく“バーチャル書生制度”だという。古川氏に、「明るい大人の悪巧み団」で実現しようとしている次世代支援について聞いた。
慶應義塾大学を退官した古川氏は、東京都渋谷区広尾に昨年7月オープンした「EAT PLAY WORKS」にプライベートオフィスを置く。食とウェルネスとワークカルチャーを融合したこの新しい施設を拠点に、近く正式に立ち上げる「明るい大人の悪巧み団」の構想を、イベントやYouTubeなどで発信している。
「明るい大人」とは、古川氏のように引退した世代の人たちのこと。「悪巧み」は、応援したいと思った企業や個人に対して、自身が持つノウハウで支援し、時には投資することを指す。少し変わっているのは、バーチャルな組織を目指していることだ。
「会社組織でも、社団法人でも、NPOでもなく、バーチャルでつながる組織ですね。20人から30人くらいの規模でスタートできると思います。『この会社は面白そうだから、相談に乗ってくれない?』と私が声をかけて、共感した人たちで支援をするスタイルです。
アドバイスすることに加えて、『退職金の一部を出してもいいよ』という人たちが100万円単位で投資してファンドを作ります。それを1社に全部投資するのではなく、プロトタイプを作りたいと考えている企業や個人など数社に、500万円から1000万円レベルの支援をしていくイメージです。
引退しても力が余っている人はたくさんいます。家にずっといても家族にうざいと思われますから、外に出て悪巧みしようという感じですね(笑)。また、支援する会社に毎日通っても、若い人たちからうざいと思われるのではないでしょうか。必要とされた時に相談に乗るような、あくまでゆるいつながりを考えています」
「明るい大人の悪巧み団」の支援スタイルは、かつての書生から着想した。書生はもともと学業を修める時期にある若者を指す言葉だが、明治以降の日本では、高等学校や大学に通うために他人の家に下宿して、家事や雑用を手伝いながら勉強する若者が書生と呼ばれた。書生制度とも言われるこの仕組みを、バーチャルで実現しようという構想だ。
「書生制度は大学などに通う学生を家で預かって、成功するために場所を貸してあげるイメージです。でも、今の時代は自分の子どもの教育だけでも大変で、自宅に書生の部屋を作って面倒を見るのは難しいですよね。そこでバーチャル書生制度のようなものを作るのが狙いです」
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