サカタ製作所(新潟県長岡市)は2017年に男性育休取得を推進し始めると、急速に「育休は取って当たり前」という意識を浸透させ、18年には取得率100%を達成、以降も100%をキープしている。当初は「わが家には必要ない」など社内の理解を得られなかった男性育休を、どのようにして定着させたのか。総務部の岡部美咲氏へのインタビュー(後編)をお届けする。
【前編】「売り上げが落ちてもいいから、残業をゼロにせよ。やり方は任せる」 社長の“突然の宣言”に、現場はどうしたのか
同社は残業時間の大幅削減など、ワークライフバランスの両立を推進してきたが、なかでも男性育休はなかなか進んでいなかった。17年のある日、「育休を取りたいけど取りづらくて悩んでいる社員がいるようだ」と総務部に話があった。
それまでにも、15年には同社設立以来初となる男性育休取得者が2人出てはいたが、「取らざるを得ない特別な家庭事情などがなければ申請しにくい」という雰囲気だった。
この話が社長の耳に入った翌日、男性社員の育休取得と全社員の有休取得を進めていくと通達した。男性育休も「残業ゼロ」の取り組みが滑り出したころと同じく、「社長に言われたから、渋々」といった様子で始まった。
初年度はなかなか理解を得られず、初めて子供が産まれる男性社員からは、「うちの妻は専業主婦で、親とも同居しているから自分が育休を取る必要はない」という意見が寄せられることもあった。
育休を取った方が良い理由を話したところで、なかなか理解してもらえないという実感があり、社内に男性の育休取得を促す雰囲気を作るために「イクメン表彰」を実施した。全社集会で、仕事も家庭生活も充実している男性社員や、部下が子育てしやすいよう仕事を采配する上司を表彰する制度だ。
こうした雰囲気作りが功を奏してか、実際に取得する人が出始めると「あの人が取れるなら自分も取れる」と社員が次々に取得。18年には取得率100%に上昇し、19年、20年も100%をキープしている。男性も育休取得が当たり前という文化が根付いた。
なお、イクメン表彰は19年まで実施したが、男性育休が定着したことや、仕事と家庭の両立をしている女性社員も多いのに男性のみ称賛するのは不適当ではという意見を受け、当初の目的は達成したと判断。現在は実施していない。
同社はもともと、2015年から残業ゼロに向けてさまざまな取り組みをしており、誰でも休める体制が整備され始めていた。「育休は、子どもが産まれるという報告があってから、数カ月の準備期間があります。誰でも休める体制に、計画的に準備できるという育休の性質、そして社長の通達による『半ば強制的な男性育休取得』が絡みあって、うまく軌道に乗ったのかもしれません」(岡部氏)
男性育休や残業ゼロ化などワークライフバランス両立のための取り組みは、特に管理職の意識を大きく変えた。「休まれたら困る」ではなく、「誰かが休んでも業務に支障のない組織づくり」が必須という考え方が根付いた。また、家庭と仕事の両立するための手段として、休むことだけではなく、テレワークや時短勤務なども取り入れ、柔軟な働き方を模索するようになった。
家族と同居している場合など、父親が休まなくても子育てが回る家庭もあるが、「日々成長する子どもの様子をそばで見守ることができてうれしい」「母親ってこんなに大変なんだと驚き、夫婦で家庭を営まなければと覚悟が生まれた」などの声が寄せられている。「周りに負担をかけたかもしれないが、同僚が育休を取得するときには安心して休んでもらえるよう、よりスムーズに業務が回るような職場づくりに貢献したい」と語る社員もいた。
男性の育休の場合、上司から総務に連絡が入り、育休に関する制度説明を行う。総務に直接、手続きについて問い合わせる社員もいるという。
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