今では動画ストリーミングサイトとして絶対的な地位を占めるYouTubeも、黎明(れいめい)期には違法アップロードも多かった。これが成長した要因の1つでもあり、清濁併せのんでいた時代もある。
現に、YouTubeがサービスを開始した05年には、コンテンツの配信停止や広告収入の権利者への還元をサポートする「コンテンツID」の仕組みは存在しなかった。さらに、日本音楽著作権協会(JASRAC)とYouTubeが音楽著作権に関する包括利用許諾契約を締結したのは、サービス開始から約3年後の08年10月となっている。それまでは、動画サイトで投稿者がJASRAC管理楽曲を二次利用する場合は個別の事案ごとにJASRACに申請し、著作物の使用料を支払うべきではあったが、ほとんどのケースでは投稿者が個別にJASRACヘ申請せずに無断で楽曲を動画に使用していたのだ。
ただし、この事例では、被害者となるのは基本的にレーベルや出版社、著作物の製作委員会などの少数であり、エンドユーザーである消費者は不正な投稿によって便益を得られていた。そのため、消費者からのYouTubeに対する不満は小さく、コンテンツの違法アップロード自体が炎上騒ぎになることは少なかった。
このように、世界的なサービスでも、黎明期は危ない橋を渡ったものの、皮肉にもそれによって事業が成長し、今のクリーンな時代を築いているともいえる例が存在することも確かだ。
そう考えると、成長のために「危ない橋を渡る」という決定は、ある種絶対に否定されるべきともいえない価値観とも思われる。しかし、これがプラットフォーム型のサービスの場合、その危ない橋を実際に渡らされるのは、顧客や関係者であるということを肝に銘じた上で経営者は判断の舵(かじ)を切るべきである。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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