クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ハイブリッドやEVのバッテリーはいつまでもつ? 寿命を決める温度管理高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)

» 2021年07月05日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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下取り価格が安くなるのはバッテリーの価値減少

 最後にEVの下取り価格が低い問題について。そもそもEVの販売価格にはバッテリーの価格が含まれており、そのバッテリーの能力が低下している=バッテリーの価値減少、という判断なのだから、止むを得ないところはある。ガソリン車と同じ残存価値をEVに求めるのがそもそも間違いで、ガソリン代に比べて安い電費の分でバッテリー価値の恩恵を受けているのだが、その観点が抜け落ちている人が多いのはこれもまだ普及過渡期のモビリティであるあかしだろう。

 初代日産リーフやe-NV200、三菱iMiEVなどの中古車が激安になっているのは、クルマの価値ではなく、バッテリーに価値がないという判断だ。バッテリーが充電時間ばかり掛かって巡航距離を稼げないのは時間の浪費でしかないから、商品として価値ナシと判断されても致し方あるまい。

 現行モデルのリーフも3年落ちでほぼ半値という状態、つまり下取り価格は半値以下ということになる。少しでも下取り価格を維持したいのであれば、急速充電を連続して行うなど、リスクが高い行為(例え車両側で温度上昇を検知して充電制御が働いても、それで性能低下を抑えられるとは限らない)は避けるべきだろう。

 自宅に交流単相200ボルトの普通充電設備を設置できる環境にある人であれば、現在のEVでも十分に愛車としての役割を果たせるだろう。マンションなどで充電設備の設置が進まないのはEVの普及を阻害している大きな要因だが、せめて急速充電器がニーズを満たすまで設置を増やすことを国や自治体が率先して行う必要があるはずだ。

 また現在でも急速充電器の空き待ちが発生しており、充電時間を終えても充電器を明け渡さないユーザーもいるという急速充電器使用のマナーも問題化している。後に予約が入っている場合、累進的に駐車料金を上昇させるなどペナルティ的な制度を導入するといった、アプリと充電器をさらに連携させた仕組み作りが必要ではないだろうか。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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