なぜ「はま寿司」のデータを欲しがった? 「かっぱ寿司」転落の背景は“伝統の否定”長浜淳之介のトレンドアンテナ(5/5 ページ)

» 2021年07月13日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]
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社長交代を繰り返す

 18年、ステーキ「ステーキ宮」やグルメ回転寿司「にぎりの徳兵衛」などを運営していた、コロワイド傘下アトム社長の小澤俊治氏が、大野氏の後任に迎えられた。この頃には、順番待ち・予約システムが稼働。寿司の内容も改善され、競合他社にようやく追い付いてきており、光明が見えてきた。

小澤俊治氏

 遅れていたサイドメニューの開発も、18年6月に発売した「本格ラーメンシリーズ」第1弾である「えびそば 一幻」監修の「海老ラーメン」が販売10日で10万食を記録するヒット商品となった。

かっぱ寿司で18年にヒットした「えびそば 一幻」監修、海老ラーメン。競合他社に遅れていたサイドメニューでの待望のヒット(出所:カッパ・クリエイト公式Webサイト)

 しかし、19年決算は不採算店を17店閉めたため、最終利益は1億円にとどまった。20年は既存店売上高がおおむね前年を上回る好調な年で、経常利益は倍増して15億円に達した。しかし、新型コロナの収束が見通せないための固定資産の減損処理などで、最終赤字3億円に転落した。21年3月期は、コロナ禍で売上高が13.3%減の649億円、最終赤字11億円と2年連続の赤字になった。小澤氏は健闘したが、コロナ禍のため思うに任せず、不運な短命社長となってしまった。

 今にして思えば、コロワイド傘下で最初にかっぱ寿司の社長になった五十嵐氏に任せておけば、こうは迷走しなかっただろう。

 約7年間で5人もの社長が交代したかっぱ寿司。新社長に就任した田邊氏が置かれた厳しい立場も推察できる。

経済産業省の見解は?

 不正競争防止法を所管する経済産業省知的財産政策室は「同業他社に移籍した人が、元同僚と連絡を取り合うのが直ちに良くないわけではない」とする。ライバル会社の社長となって、元同僚と会って情報交換するのは自由だ。しかし、所属していた会社の社員しか知り得ない情報を横流ししてもらっていたとなると、民事上の損害賠償、刑事罰が科せられるケースがある。

 20年7月21日の高松地方裁判所の判例を見てみよう。顧客の預金残高などの情報を漏えいしたとして、不正競争防止法違反で、百十四銀行(高松市)の元行員の2人に、執行猶予付きの有罪判決が出ている。

 18年12月〜19年6月、行員Aが既に退職していたBからの依頼を受けて、タブレット端末から銀行の顧客データを送っていたという事件だ。Bの父は会社を経営していた。Aもその後、銀行を退職していた。

 田邊社長と、田邊氏に情報を流したはま寿司社員も、場合によってはこの判例に倣い、罪に問われる可能性がある。

価格や期間を変えつつ断続的に続く、かっぱ寿司の食べ放題。最新は50分2200円で実施(出典:カッパ・クリエイト公式Webサイト)
5月から、かっぱ寿司はシャリを山形県産米「はえぬき」に変更(出典:カッパ・クリエイト公式Webサイト)

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。


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