【決算】マネフォ、ARR97億円、40%増 次の成長に向けた2つの取り組み

» 2021年07月15日 20時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 マネーフォワードは7月15日、2021年11月期の上期に当たる20年12月-21年5月期決算を発表した。売上高は74億6000万円(対前年43.1%増)、営業利益は上期で4400万円の黒字となった(第1四半期は8000万円の黒字、第2四半期は3600万円の赤字)。

【訂正:7/16 13:10 第1四半期および上期が黒字、第2四半期は赤字でした。お詫びし訂正いたします。】

 SaaSビジネスの定常的な収益であるARR(Annual Recurring Revenue)は、97億円に到達し前年同期比で40%の伸びを見せた。伸びをけん引したのは、同社が集中投資領域と位置付ける法人向けバックオフィスSaaSサービスだ。50%の伸びを見せ、63億4200万円となった。

ARR97億円到達、50%の伸び

 クラウド会計を中心とした法人向けバックオフィスSaaSは、21年3-5月期に獲得した課金顧客数が、法人で1.9倍、個人事業主が3.1倍となり、増加ペースが加速した。20年に、個人向けの家計簿サービス、マネーフォワードMEに確定申告支援機能を搭載し、そこから会計サービスへの送客が効果を発揮した。

マネーフォワードMEのパートナー戦略が進行

 マネーフォワードの創業事業でありながら、事業としての投資優先度が下がっていた個人向け家計簿サービスのマネーフォワードMEだが、この四半期は新たな動きが見られた。1200万人を超えるユーザーが登録した、総額15兆円にのぼる個人資産の情報を活用し、ユーザーの課題を把握、パートナーとの協業によって課題を解決していくというものだ。

 新電力のシン・エナジーの電気プランを提供する「電気料金の見直し」、ライフネット生命の保険を提供する「生命保険の見直し」の提供を開始。ロボアドサービスを運営するSUSTENと資本業務提携し、ユーザーの資産状況に合わせて資産運用サービスを提供する機能を共同開発する。さらに、中古・リノベーション住宅の流通プラットフォームを運営するツクルバと提携し、住み替え支援サービスも22年に提供する予定だ。

家計簿サービスのデータを活用し、パートナー協業を推進する

 こうしたパートナー協業により、従来6000億円としてきたホーム領域のTAM(潜在的な市場規模)を、8000億円に上方修正した。

ホーム領域のTAMを上方修正した

 課金サービス利用者は32万人(対前年29%増)となり、バックオフィスSaaSと比較すると成長率は低いものの、新たな事業領域の足がかりをつかんだ形だ。

 「サービスの作り込みが重要なので、パートナーとはしっかり提携しているが、独占的な形ではなく、さまざまなパートナーに提携を広げていきたい」と辻庸介社長は話した。

三菱UFJ銀行とのジョイントベンチャー

 もう1つの注目は、中小企業向けオンラインファクタリングサービスの提供に向け、三菱UFJ銀行(MUFG)と合弁会社を設立する点だ。この夏に設立し、サービスは22年春の提供を予定している。

 ファクタリングとは、売掛債権、つまりいわゆる請求書を合弁会社が買い取るサービスだ。これにより中小企業は売掛債権を早期に現金化でき、資金繰りを改善できる。オンラインで提供することにより、審査プロセスの自動化や、審査時間の短縮化、非対面での利用を実現する。

中小企業向けオンラインファクタリング事業および請求代行事業の開始を予定

 辻社長は、「ファクタリングは伸ばせば伸ばすほど運転資金が必要になる。当社単体ではアクセルを踏みづらかったが、MUFGの財務基盤を活用することで安定した事業が行える。MUFGの名前で出した方が知名度、信用力が大きい。MUFGの顧客基盤にも提供する。より広いユーザーに申し込んでもらえることを期待している」と話した。

 全社の戦略としては、中長期的なキャッシュフローの最大化を重視する方針を堅持しており、黒字化については営業利益ではなく通期でのEBITDA(利払い前、​税引き前、減価償却前、その他償却前利益)の黒字化をコミットしている。ただし、上期で営業黒字となったことで、追加借入も容易となった模様だ。

 インドネシアでバックオフィスSaaSを提供するメカリグループへの出資などもあり、前四半期から手持ち資金は10億円ほど減少した。「ネットキャッシュは20億くらいだが、長期の借入が多い。上期黒字化していることもあり、追加の借入もし、流動性については問題ない」(金坂直哉CFO)

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