攻める総務

<基本編>知識ゼロから読める改正電帳法「一問一答」お堅い「国税庁一問一答」を超解読!(2/3 ページ)

» 2021年07月21日 08時00分 公開
[西田めぐみITmedia]

問1 電帳法って何? e-文書法と何が違う?

どちらも主にペーパーレス化促進のための法律。電帳法は国税関係帳簿書類、e-文書法はその他の法定保存文書も対象

 混同されがちだが、電帳法とe-文書法は別の法律。 e-文書法が対象とする書類は、国税関係帳簿書類だけでなく、医療、建築、不動産といったその他の法定保存文書も含む。

 そして電帳法が対象とするのは、「(1)国税関係帳簿、(2)国税関係書類、そして(3)電子取引にかかわる磁気的記録(PCなどに保存すること)の3種類です。これら国税関係帳簿書類は、税法という特別な法律にかかわるため、電帳法で細かく規定されています」(持木氏)。

問2 データでもらった請求書を「紙」保存できなくなるって本当?

本当。電子取引で受け取った国税関係書類は、電子保存が義務になる

 メールやクラウド経由で受け取った、電子データ保存の義務化は「改正電帳法の中でも、戸惑う企業が多い」(持木氏)という。例えば、メールでPDFの請求書を受け取った場合、現行法では「紙に出力して保存か、電子データ保存か」を選ぶことができる。しかし、改正電帳法では、「紙に出力」という選択肢が削除され、電子データ保存一択となった。

 「全体的に要件が緩くなった一方で、電子取引に関しては厳しい法律になったといえます。これにどう対応していくのか、頭を悩ませている企業も少なくありません」(持木氏)。

問3 電子取引で「紙」保存を続けるとどうなる?

処分対象になるので要注意

 改正電帳法が施行(22年1月1日)された後も、電子取引において「紙」で国税関係書類を保存していた場合、「法対応していない」ことになる。国税関係書類として認められず、税優遇を受けられないなどのリスクがある。詳細は「問9」も参照。

問4 「国税関係帳簿」「国税関係書類」って?

「帳簿」は取引の記録や明細「書類」は決算関係と取引関係で細かく分かれる

 「国税関係帳簿」は、主に仕訳帳や総勘定元帳が代表的な例。「国税関係書類」は大きく2種類に分けられ、一つは決算の際に作られる書類「決算関係書類」、もう一つは取引をする際に作られる「取引関係書類」になる(詳しくは以下の表を参照)。

 なお、「自分で最初からPCなどを使い作成した帳簿・書類」と、「相手から『紙』で受け取った書類」では、保存方法が変わる。前者の場合は、手書きなどが含まれていないことが前提で、「電子帳簿保存」が適用される。ここに含まれる取引関係書類は、主に自分で発行し、取引先に送付した書類の“控え”のことを指す。後者の場合はもともと「紙」なので、スキャンしてデータ化する工程が生まれ、「スキャナ保存」が適用となる。なお、電帳法において帳簿はスキャナ保存の対象外。つまり、手書きの帳簿は電帳法に対応できず、「紙」のまま保存することになる。

photo 国税関係帳簿、国税関係書類、そして電子取引の主な区分け。(TOMA税理士法人提供の資料、国税庁配布資料「電子帳簿保存法が改正されました」を基に筆者が作成)

問5 国税庁公式サイトの「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)」、3種類あるけど何が違う?

ざっくり言うと、自分で作った帳簿書類、「紙」で授受した書類、データで授受した書類……という区分け

 国税庁の公式サイトでは、「電子帳簿保存法Q&A(一問一答)」が用意されている。一問一答は全部で3種類あるが、簡単に説明すると、(1)「自分で最初からPC上で作ったもの」、 (2) 「『紙』で授受したもの」、 (3) 「データで授受したもの」で帳簿書類を区分けして、保存要件がまとめられている。

photo これらの区分けの中に、会計ソフトなどシステム上のデータ(主に1のみ)もあるし、PDF、JPEG、画面キャプチャ(主に3とスキャン後の2)もある

問6 電子データはいつまで保存すればいい?

原則7年。場合によっては10年

 電帳法における電子データ(国税関係帳簿書類)の保存期間は、「紙」のときと同様に原則7年。ただし、欠損金の繰越控除を受けた場合は、 「繰越欠損」を証明できる書類のみ10年保存する必要がある。

問7 今すぐ、電帳法に対応すべき?

22年1月1日改正施行を待つのが正解

  電帳法は、何度も改正を重ねて徐々に対応要件が緩和されてきたが、新たに公表された21年度の改正(施行は22年1月1日)は「今までの法令要件を抜本的に覆すような大規模な法改正です」(持木氏)。

 中でも「承認制度の廃止」が導入されたことは大きい。「現行法では、電帳法に対応する“3カ月前”までに承認申請書と事務手続き概要を税務署へ提出する必要があります。しかし、改正後はそれが不要になります」と持木氏が話すように、仮に現在(21年7月)に届け出ても、承認されるのは11月。大幅に要件が緩和される、改正電帳法の開始まで待った方が賢いといえるだろう。

問8 改正電帳法の「承認制度の廃止」はいつ時点の帳簿書類が対象になる?

帳簿か書類か電子取引かで少し違う

  改正電帳法の施行は22年1月1日だが、帳簿の場合は「22年1月1日以降に開始する“事業年度から適用”」が正確な内容。つまり、3月決算の企業は22年の4月1日以降から、改正電帳法の要件で帳簿の電子データ保存が可能となる。

 一方、書類およびスキャナ保存したデータ、そして電子取引で受け取ったデータは「22年1月1日以降に保存または授受したものから適用」。つまり極端な話、12月31日に「紙」で受け取った請求書をスキャナ保存したい場合は、税務署へ承認申請書を出さないといけないことになる。

問9 電帳法に罰則はあるの?

ある罰則規定が制定されている

  改正電帳法は、要件が緩くなった代わりに罰則も厳しく設定されている。

 「主に隠蔽など不正行為が発覚した場合は、『通常課される重加算税の額にさらに当該申告漏れに対する税額の10%相当の金額が加算』されます。また、22年1月1日以降、電子データで受け取った請求書などは『紙』保存が認められません。それを守らず『紙』保存をすると法対応していないということになるため、『青色申告や連結納税の承認取り消し処分』というリスクがあります」(持木氏)。

 隠蔽しないというのは当然だが、うっかり「紙」保存を継続してしまった場合であっても、税優遇を受ける権利を得られないことになるため、注意が必要だ。

問10 電帳法はどうして大幅に改正されたの?

主に電子取引促進、テレワーク推進、さらに“記帳水準の向上”などのため

  メール、クラウドストレージ、またSaaS利用の普及を受けて、電子取引をより促進するため、またコロナ禍にありながら「紙」業務によりテレワークを導入できない経理業務の効率化するため――などが主な理由として挙げられる。

 加えて、こんな事情もあるという。「コロナの影響で経営が苦しくなった中小企業や個人事業主には、支援対策として補助金が給付されました。しかし、申請するためには3カ月分の合計売上高が減少していることを証明しなければならない――など条件があり、『帳簿記録していないから申請できない』という声が多くありました」(持木氏)。改正電帳法には、コロナ禍で露呈した粗雑な帳簿管理、その水準を向上してくださいという国の切実な願いも、実は込められている。

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