クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜハイブリッド車のエンジン始動はブルルンと揺れないのか高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)

» 2021年08月16日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

アイドリングストップ車にも始動時に工夫が

 純エンジン車のアイドリングストップ機構でも比較的スムーズなエンジン始動と、そうではないものがある。どちらかというと国産車はブルンッという大きな振動を乗員に感じさせるのは避けるように工夫されているのに対し、欧州車は機能重視とばかりに始動時の振動にはあまり気を使っていない印象だ。

 エンジン始動時の振動を抑える工夫としては、可変バルブタイミング機構を利用して吸気量を制限することが挙げられる。これは軽負荷の巡航時のように、吸気行程を超えても吸気バルブを開いておくことで混合気を減らして、燃焼圧力を下げることで振動を抑える、というものだ。

 マツダが開発したi-stopというエンジン始動法もユニークだ。これはエンジンを停止させる際に発電機の抵抗を使って任意のクランク角度で停止させる。そして膨張途中のシリンダーに燃料を噴射して点火し、瞬時にエンジンを始動させるというもの。セルモーターで勢いを付ける必要がなく、素早いエンジンスタートが可能な技術だが、現実には100%成功する始動法ではないため、セルモーターを併用する方式となって実用化されている。

昔はエンジン始動も命がけだった?

 大昔にはデコンプという機構もあった。これはデ・コンプレッション、すなわち圧力を解消する機構のことで、具体的には排気バルブを手動で押し下げ、圧縮行程のシリンダーから圧力を抜くことで、オートバイのキックスターターによるエンジン始動を補助するものだった。

 この機構が備わっていないと、圧縮に負けてエンジンが逆回転することにより、キックペダルが跳ね上がってくるケッチン(キックバック)と呼ばれた現象が起こる。それによって足を怪我したり、身体ごと放り投げられたりしたそうだ。筆者はそこまでの経験はないが、キックペダルが跳ね返ってくることは、キックスターターのバイクに乗っていたことがある人なら誰でも軽いケッチンを経験しているだろう。

 クルマも黎明期(れいめいき)はフロントバンパー中央辺りからエンジンにクランク棒を差し込んで人力で始動していたらしく、クランク棒がキックバックにより暴れることも珍しくなかったらしい。それで友人を亡くしたヘンリー・マーチン・リーランド(キャデラック社初代社長)は、キャデラックに世界初のセルスターターを搭載したのである。

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