クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

なぜハイブリッド車のエンジン始動はブルルンと揺れないのか高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)

» 2021年08月16日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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 そこから80年近くクルマの始動方法は大きく変わっていなかった。セルスターターを使わない始動法が誕生したのは冒頭のハイブリッド車が誕生してからのことなのだ。マイルドハイブリッドでは、クランクシャフトとベルトで結合された発電機がスターターの役目を果たすISG(スターター一体型発電機)という機構を採用していることも多く、こちらもキュルルルという始動音は起こらなくなっている。

BSG(ベルト駆動スターター兼発電機)とも呼ばれるISGを採用したマイルドハイブリッドの例。加速時にエンジンをアシストすることで燃費を向上させるだけでなく、アイドリングストップ時の始動や回生充電も担っている

 そう考えると、現代のエンジン技術はここ20〜30年の間に素晴らしいほど高度化されたことが、ご理解いただけたのではないだろうか。

 前述の可変バルブタイミング機構を使ったスムーズなエンジン始動も圧縮圧力を軽減するものであるから、ケッチンを防止するデコンプ機構と考え方は通じるものがある。欧州車では、それは危険ではないことから見過ごされてきた、始動時の振動を出来る限り解消させようというエンジニアたちのユーザーへの配慮なのだ。

 このところ世界中で、2030年代以降にエンジン車の販売が禁止される法案や姿勢が打ち出されているが、もしモーターだけで走るようになったとしても、日本の自動車メーカーは独特のキメ細やかなモノづくりで、他社とは乗り味の異なる仕上がりのクルマを作り上げてくれることだろう。

 それが日本製品のガラパゴス化を招いている要因になることもあるかもしれないが、相変わらず海外での販売も好調な日本車たちの人気の原動力になっていることもまた事実だろう。満足なカタチではない状態で開催された東京オリンピックでも、来日した海外選手や報道関係者が感激してくれた「おもてなし」の精神は、日本車にも込められているのである。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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