電帳法において、「紙」で授受した国税関係書類などをスキャンして電子保存できる制度
電帳法が対象とする国税関係書類(<基本編>問4参照)の中で、相手から「紙」で受領した書類または自己が作成した書類の写しをスキャンして電子保存できる制度のことを指す。具体的な対象書類には、領収書、請求書、納品書、見積書などが該当する。なお、領収書などA4サイズ以下の書類はスマホやデジカメで撮影=スキャンとすることも可能(詳細は問9参照)。
重要度別に低・中・高に区分けされ、「一般書類」は低、「重要書類」は中・高が対象
スキャナ保存の対象となる国税関係書類には、「一般書類」「重要書類」と呼ばれる区分があり、書類によって重要度が低〜高まで3種に分かれる。 一般書類は主に見積書や注文書といった“まだ取引が確定していない書類”=重要度〈低〉。重要書類は請求書、納品書といった“資金やモノの流れの証拠となる書類” =重要度〈中・高〉になる。
「一般書類と重要書類は、入力方式(期間)に違いがあります。一般書類は期間に制限がなく、適時入力できる点が特徴です。重要書類は、最長2カ月+おおむね7営業日以内の入力が義務付けられています」(持木氏)
タイムスタンプ付与→訂正・削除履歴などが確保された状態にするまでを指す
「スキャナ保存における“入力”とは、対象となる『紙』の国税関係書類をスキャナーで読み取った後、タイムスタンプを付して、当該電磁的記録にかかわる訂正または削除の履歴などが確保された状態にするまでを指します」(持木氏)
もう少しかみ砕いて説明すると、電磁的記録とは、例えば立替精算で使うPC上のシステム(クラウドでも可)へ記録することを指す。そのシステムが、「記録内容を訂正または削除した際、履歴が残るような仕様(訂正・削除ができない仕様を含む)」になっている=確保――という意味で、その一連の記録作業が、スキャナ保存では包括的に“入力”と呼ばれている。
文脈で意味が違うけれど、入力要件のことなら「おおむね7営業日以内」という意味
スキャナ保存に限らず、電帳法の要件を読んでいると“速やかに”という、曖昧な言葉が目に付くが、これは前後の文脈で意味が異なる。
例えば、スキャナ保存における入力要件のことなら「速やかに入力=おおむね7営業日以内に入力」と具体的に訳せるし、機能要件のことなら「速やかに出力=求められれば検索も出力(ディスプレイ表示、印刷)も、時間をかけることなく実行できる状態」と、やっぱり曖昧なままだったりする。
後者に関しては、取りあえず要件に添ったシステムを導入し、データ管理をしていればおのずと“速やか”になるので、深く考えるのはよそう。
書類を授受してから「長くても2カ月+だいたい7営業日の時間をあげるから、それまでに入力しなさい」というルール
まず前提として、スキャナ保存できる――つまり「紙」で授受した国税関係書類などを電帳法で保存(スキャンして電子データ保存)できる期間は限られている。そのルールが「入力要件」だ。改正電帳法では、この入力要件として「業務の処理にかかる通常の期間を経過した後、速やかに行うこと」と定められており、この「業務の処理にかかる通常の期間」を「業務処理サイクル」と呼ぶ。
例えば経費精算では、当月分を翌月5日までに申請するなど企業ごとに業務処理サイクルを決めて運用している。これが「業務処理サイクル方式」だ。
業務処理サイクルは最長で2カ月設けることが可能で、業務処理サイクル期間が経過したら「速やかに(おおむね7営業日以内)」入力することが求められる。なお、業種業態によっては必ずしも7営業日以内に入力することができない場合(例えば、毎日事務所へ出勤しない勤務形態の社員が受領した書類の入力など)も考慮して、「おおむね」となっている。ただし、単に申請するのを忘れた際などは当てはまらないので注意したい。
なお、入力期間に制限があるのは「重要書類」だけ。「一般書類」は入力期間に制限がない(詳細は問2参照)。
過ぎた後でも、タイムスタンプを付与してスキャナ保存すればOK。ただし、原紙となる「紙」は捨てられない
もし、「業務処理サイクル方式」で定められている期間(最長2カ月+おおむね7営業日以内)に、タイムスタンプの付与→システムへの記録ができなかった場合はどうなるのか?
「もらった請求書や立替経費の精算書類が机の中で眠っていた……なんてことはよくあります。そういう場合でも、気付いたときにタイムスタンプを付して、システムへ記録しなければなりません。『電帳法に対応すると決めたなら、例外なく処理してください』ということですね」(持木氏)
ただし注意したいのは、この場合「保存要件を満たしていない」電子データ記録になるため、原紙は破棄できず、保存する必要があることは覚えておきたい。
帳簿と決算関係書類は対象外。相手から受け取った手書きの請求書は対象内
具体的にスキャナ保存の対象外となるのは、国税関係帳簿、そして国税関係書類の中の「決算関係書類」 (<基本編>問4参照)。
逆にスキャナ保存ができるのは、主に国税関係書類のうち、相手から「紙」で受け取った契約書、領収書、請求書などになる。ここには手書きのものも含まれる。相手からPDFなどのデータで受け取った請求書などは「電子取引」の要件が適用されるので、スキャナ保存の範囲外だ。
入力要件の緩和と合計3人チェック体制の廃止が大きい
スキャナ保存における要件緩和は、改正電帳法の目玉といっていいほど影響が大きい。中でも注目したいのは、「入力要件」の緩和と「適性事務処理要件(合計3人チェックなど)」の廃止だ。この理由について持木氏は、「今回の改正で、内部統制の面が“ゆるゆる”といっていい状態になりました。これは主に、現行法の厳しい要件では対応が難しく電帳法に踏み切れなかった、中小企業への配慮と見られています」と話す。
内部統制が“ゆるゆる”になった――とはいえ、「大企業はそういうわけにもいかないだろう」。持木氏はそう推測し、次のように続ける。
「今回の改正では『適性事務処理要件』が丸ごと消滅しました。その中身は、主に(1)合計3人体制でのチェック、(2)1年に1回以上の定期検査、そして(3)不備発覚時の再発防止策構築です。これは法的に『しなくてもいいよ』ということですが、『そうはいかない』という企業も実際多くあります。要は、『中身の運用は企業ごとに決めていいですよ』という法律に変わったということなので、改正電帳法に合わせて業務フローを見直す必要があります」
ダメ。A4以下の書類と一般書類だけ
電帳法がスマホやデジカメ撮影に対応したのは、16年「スキャナ保存制度の要件緩和」から。それまで、スキャナ保存に対応するためには読み取り台がついているスキャナーが必須だったため、この要件緩和は当時も話題になった。しかし、実はスマホやデジカメで撮影できるのは「A4以下」までという決まりがある。
「これは、 A4以下であれば『用紙の大きさに関する情報を保存する必要がない』ためです。スキャナーで読み取った場合は用紙サイズまで記録されますが、スマホやデジカメはあくまで写真撮影なので、そこまで詳細なデータは記録できません」(持木氏)
なお、「大きさに関する情報」を記録しなければならないのは、重要書類のみとなる。回答をまとめると、スマホやデジカメで撮影できるのは、(1)相手から「紙」で受け取った国税関係書類、(2)A4サイズ以下の重要書類、(3)一般書類〈サイズ不問〉。重要書類と一般書類については問2参照。
いいけど……そこそこ面倒だから非推奨
スキャナ保存制度では、該当書類をスマホやデジカメで撮影保存することについて「受領者以外の者が代行してもよい」とされている。経理が受領者に代わって領収書や請求書をデータ化する――というケースは多々あるだろう。
ただしその場合、例え該当書類がA4以下であっても「大きさに関する情報」を記録しなければならなくなる。でも、スマホやデジカメではサイズ情報の記録は難しいはず……ではどうするか?
「要件では、『書類の横にメジャーなどを置いて合わせて撮影する』または『画像ファイル作成後に大きさに関する情報を手入力する』ことが求められています。正直、面倒なだけなので、受領者以外が記録をするならスキャナーを使うのが妥当でしょう」(持木氏)
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