新型コロナウイルスの影響によって観光産業が瀕死のダメージを受けている。東京五輪が閉幕した現在も、国内での新型コロナワクチンが全国民に行きわたるスケジュールも見えない。政府は緊急事態宣言の対象拡大と延長に踏み切る見通しで、かなりの期間、人流を抑える政策が続けられる可能性が高い。観光産業にとってはこれまでのビジネスモデルを見直し、新たな施策を打つ必要性に迫られている状況だ。
そんな中、JR東海と愛知県が同県を舞台に、新たな観光キャンペーンの在り方を模索している。
愛知県は三大都市圏の中枢であり、日本経済に欠かすことのできない存在だ。県内総生産額、人口数とも5本の指に入る実力がある。戦国時代には主に日本史の舞台の中心にもなった場所で、城郭として国宝第一号に指定された名古屋城や、現存する日本最古の天守閣を擁する犬山城などの城郭がある。さらに古くは「三種の神器」の一つ、草薙神剣を奉斎するといわれる熱田神宮もあり、観光できる場所にも事欠かない。
東海道新幹線が通り、首都圏や近畿圏からもアクセスが良い……にもかかわらず、「都道府県『観光意欲度ランキング』2020」(ブランド総合研究所調べ)では47都道府県中22位に甘んじているのが現状だ。名古屋を中心にビジネスで行く場所というイメージが強く、さらに「食」のイメージが低いのも原因と言えそうだ。
その愛知県を舞台に、JR東海は愛知県と協働し、「あいち冷やし旅キャンペーン」を9月まで展開している。名古屋市に本社を置くJR東海にとっても、県内の観光ブランドイメージを少しでも高めたい狙いも垣間見える。
「冷やし旅」とは聞き慣れないフレーズだが、県内に点在している「冷やしコンテンツ」に注目して、それを全面に打ち出したキャンペーンだ。
キャンペーンポスターを2種類用意し、アイスサウナとタコを主役としている。
愛知県の観光ポスターを制作する場合、真っ先に候補に挙がりそうなのが、前出の名古屋城や熱田神宮などだが、なぜアイスサウナとタコという“ニッチ”なものにフォーカスしたのか。「冷やし旅」の企画を担当したJR東海営業本部・小池奏里氏はこう話す。
「夏の愛知県は暑いイメージがありますが、“冷やしコンテンツ”が数多くあり、ここに注目しました。最低室温約マイナス25度、最低水温約3度のアイスサウナをもつウェルビー栄は県外から多くのサウナー(サウナ愛好家)が訪れますし、愛知県民がわざわざタコを食べに訪れる“タコの島”こと日間賀島(南知多町)のタコは、蛸壺(つぼ)で獲った後に急速冷凍することで柔らかくなっておいしくなるというストーリーがあります」
こだわったのは「脱・予定調和」だという。小池氏はこう続ける。
「ポスターのデザインにもこだわり、『なんだこれは?』と横を通りがかった方に注目していただけるようなものにしました。美しい風景やよく知られた観光スポットをストレートに打ち出しても、“景色の一部”となり、注目されない懸念があります。コピー含めて“脱・予定調和”にこだわることで、『なにか面白そうなことをやっているな』『ちょっと調べてみるか』と思っていただきたいと考えました」
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